神保町
神保町で降りた浩は、まさに向かいに三省堂のある交差点を渡ろうとしていた。
ランチ街とも、コンサートホールとも、古本屋の街とも、スポーツ用品店とも、大学とも、専門学校とも隣接しているようなその交差点は、さまざまな人が行き交う、そんな多様な人々を吸収する三省堂書店には独特な雰囲気がある。
一階にはベストセラーが平積みされているようだが、ちょっと突っ込んだ本も少し奥に入ると並べられている。
浩は小説コーナーでパラレル新宿線を探す。あった!3冊ほどが、ハ行の作者の棚に並べられていた。
作者の名前を見てみると、ホイサー構築委員会編とあった、浩は「小説なのに編とは変わってるな」と思った。ついでに値段を見てみると、なんと6000円、浩は「うげーたかーこんな薄っぺらいのに、ぼったくりかな」と思った。彼は躊躇したがホイサー構築委員会と言う父の会社名の入った編者名に親近感を覚え、パラパラとページを捲り立ち読みをする。中身は白紙だった、浩は「やっぱりぼったくりか」と残りの2冊も見てみるが、やはり白紙だった。
その中身が白紙の本を、浩は買ったのだった6000円だして、なぜなら「これは良い記念になる、他山の石にしよう」と思ったからだった。
新宿へと向かう地下鉄はすでに込み合っていた、浩はつり革にも捕まらずパラレル新宿線を両手に取り表紙を見つめる「美里さんのと同じだな、どういうことなんだろう」と浩は思う、中身が白紙の本をもう一度注意深く1ページ1ページ見てみることにした。
中表紙にはパラレル新宿線と題名が書いてあった。良く見るとページの右端に小さく
念じてください。
と書いてあった、あとは白紙のページが続くだけだ。
浩は取り合えず白紙の1ページ目で念じて見ることにした。
「…物語よ出ろ!」中々でない。浩は強く念じる。
「…」「ダメか、でも6000円も払ったんだ、そう簡単には諦めないぞ」「…」「…」「…」「…」「…」
1
新宿が呼んでいる!浩には聞こえた。
確かに彼には聞こえた、それは或る展覧会のテレビ中継での事だった。
「さあ、今日は都庁の最上階の展望室で行われてる、明日は雲の上に来てくれるかな?展にお邪魔しています」とレポーターが伝えている
「しっかし、この部屋ヒロシ!いや~ヒロシ!」
浩はどうしても新宿へ向かわなくてはならない気がしたのだった。
「出た!僕の事だ!」浩は驚きと達成感の入り交じった感覚を覚えた。
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