岩本町、秋葉原
岩本町の国道1号に出る階段をのぼり、JRの高架下を通り秋葉原駅構内を突き抜けると、飲食施設に抜けるエスカレーターがある。携帯で時間を確認すると午前9時だった。これまでの道のりに密集してた店舗は、だいたいまだ開店前だった、浩は空きっ腹で「開いてなかったらドトールでミラノサンドCでも食べよう」と半ば開いてないのが分かっているのに、何故だかその串揚げ屋を目指してしまう。
施設の2階のデッキでは、合同企業説明会が催されていた、就活生たちは熱心そうに目当ての企業のブースのパイプ椅子にすわり講演者の話に耳を傾けている。ちょうど通りすがりに、父の会社「ホイサー」のブースがあった。
浩は立ち止まり講演者の話を聞く。
「弊社では、量子コンピュータの開発に力を入れてまして、最近、新たなガジェットによるインプットと、そのデータをデータセンターに集積し」
「お父さんの働いてるデータセンターかも」と浩は思う、講演者は続ける。
「量子エンタングルメント通信により、最終的にソンザイに情報を伝えソンザイからアウトプットを得る、と言うような社会実験も執り行っています」
「ソンザイって何だろう?」と浩は思う、講演者は続ける。
「弊社では、現在あらゆる分野の専門家を広く募っており、特に次世代の通信技術に興味のあるかたは活躍が期待されます。では、質問のあるかたは挙手をお願いします」
一人の学生が質問をした。
「新しいガジェットによるインプットとは具体的にどのようなものなのでしょう?」
講演者は答える。
「具体的なことは社外秘なので言えませんが、抽象的に言うと念によるインプット全般です。」
会場がざわめく、「なんかこの会社ヤバくね」「ちょっと宗教入ってんな」「ま、会社なんて宗教みたいなもんだけどな」などなどとコソコソ話が聞こえる。
浩は、なんだか奇妙な心持ちになりますます腹が減ってきたので、串揚げ屋へと向かった。
串揚げ屋は予想通り開店前だった、しかたなく浩は岩本町駅に引き返す。
岩本町駅の国道1号沿いのドトールでミラノサンドCを一気に頬張り、アイスコーヒーを半分までストローで飲んでしまう、「相当腹がすいてたんだな」と自分でも感心する。
「しかし、改めて僕はなんでこんなことをしてるのだろう?」空腹が満たされた浩はふと思った。それからなぜだか、パラレル新宿線のことが気になり出した、「神保町で降りて、三省堂でも寄ってみるか」と決心する。
ドトールの窓からドッペンゲルガーが見えた、あのお気に入りのバンダナを頭に巻いて歩行者天国を真っ直ぐ上野に向かうのだろうなと浩は思う。以前の浩の休日がそこでは再現されているのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます