住吉、一之江、葛西、菊川、住吉

「おつとめご苦労」と美里が茶化して言う

「美里さんはなんで来てくれたんですか?」と浩

「う~ん、面白そうだから」と美里

浩がちっとも面白くなんてないのに、と思っていると、美里が「デートしようか」と言った。デートと言ってもまだ薄暗い早朝である、浩はまたドキドキする。

美里はタクシーを拾った、「高速で一之江で降りて環七を葛西に向かってください」と運転手に告げる、浩はなんだか拉致されたような心もとない気持ちだった。

タクシーは環七を南に進む、その町の南には、海がある。

葛西方面にしばらく向かうと、早朝にも関わらず開いているレストランのようなカフェがあった。ドトール農園である、なんでもハワイの珈琲農園をイメージして建てられたカフェらしく、とても落ち着いた雰囲気だ、美里と浩は、天井の高い店内の、脇にシャンデリアが置いてある2人掛け席に落ち着く。

「まだ新宿の展覧会行く気あるの?」と美里は言った。

「はい」と浩。

「う~ん、これからどうなるかなぁ」と美里が悩ましげにパラレル新宿線を開く。

「何か書いてあるんですか?」と浩。

「さあどうでしょう」と美里がにやにやする。

「主人公はどうやら浩くんらしいから、私のパラレル新宿線には主に私の事が書いてあるのよ」と美里が説明する。

「僕のパラレル新宿線があるってことですか?」

「本屋に売ってると思うよ」と美里が浩の疑問に明確な答えをだす。

「美里さんは、これからどうするんですか?」

「浩くんを、住吉に送り届けたら家に帰ってシャワーでも浴びるわ」と美里は浩の火照りを冷ました。

代車アプリでタクシーを呼び、葛西でまた高速に乗る、海に沿ってタクシーは進み辰巳インターで高速を下りる。

「ぐるッと回ってきたのか、新宿線的には後退して元の位置にだな」とひろしは思う。

途中右手に東京都現代美術館が見えた。

「私ほんとは美術館で働きたいんだ」と美里が少し寂しそうに呟いた。

「僕は、子供の頃よく展覧会来ました」「現代美術館?」「はい」「まるで大人のような口ぶりだね」と美里が小馬鹿にする。

タクシーが住吉駅前に到着した。「ちゃんと展覧会行ってきてね、決めたことをやるのが大人への近道だよ」と美里が浩を送り出し、ほっぺにチュッとキスをした。

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