東大島
車内のアナンスが東大島到着をつげる。浩はふらっと電車を降りる、左手は花見会場へのエスカレーターのすぐ近くだが脇のエレベーターを使い改札へと降りる。
乗った背面が閉まり、前面が開くエレベーターなのだが、背面のドアが閉まり下階へ落ちていく途中は異様な圧迫感と閉塞感があった。
ふと備え付けの防犯鏡に目をやると、自分の背後に背を向けた少年が何やら携帯をいじくっているのが写った。浩はなんだか尾行されている気分になっていく、エレベーターのアナンスが改札階に着いたことを告げる。静かに全面のドアが開く。多少の解放感がそこにはあった。
利用客数の割には広い改札を出て、浩は千本桜を探す、千本の桜が植えてあるのは川沿い、船堀で地上にでた新宿線は川を渡って東大島に到着した、車窓からは千本桜が望めた。
つまり、線路沿いを真っ直ぐ引き返せば土手に突き当たるはずだ、ほどなくして浩は千本桜に到着する、土手沿いの道路を渡ると、小松川千本桜と刻まれた御影石が目立つ遊歩道だった。
悲惨に干からびたこころに、葉の落ちきった桜の木々、浩は右手に真っ直ぐ延びる遊歩道を行く。
しばらく行くと異変に気づいた、天候は秋晴れから曇り空へと、女心と秋の空、と言うように変わっていった。
「帰りにコンビニで傘でも買うかな」と思って木々を見上げると、服が打ち付けられていた、服が釘かなんかで打ち付けられていたのだ、しかもその先々に、服が打ち付けられていた。
スカート、パンツ、チュニック、セーター、Tシャツ、パンティー、トランクス、ジャケット、スーツ、短パン、コート、季節感もバラバラな、用途もバラバラな、古着だったり新品だったり、シミがついてたりワッペンがついていたり、女性用だったり男性用だったり、子供用だったり大人用だったりするそれらの服は持ち主だった者の個性が、にじみ出るように皆一様に打ち付けられていた。
「何かのアートの展示会かな?」と浩ははじめに思ったがその割には人けがない、「手の込んだいたずらだろうか?」と考えながら歩いていく、天候のせいか少し肌寒くなってきた。彼の服装はチノパンに長袖の濃紺のネルシャツ確かに「肌寒いな」と思った瞬間、全く同じネルシャツとチノパンが打ち付けられているが目に入った。
浩の干からびたこころは、どんどん不安に成っていった。
しばらく歩くと、ついにそれは在った。
裸の首吊りが5体在ったのだ。
正確に言うと、裸の首吊りの人形が5体在ったのだ。
浩は面食らう、雨がパラついてきた、「引き返そう」と浩は来た道をきびすを返し早足でそれらから離れて行く。
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