瑞江2

沈黙を破ったのは美里だった

「携帯持ってる?」と言い、浩が頷くとパンティーもはかずに浩から携帯を受け取り、連絡先を入力しているようすだった。そして携帯をベットに放り投げ「5分たったら動いていいよ」と言い、パンティーをはいて出ていってしまった。

部屋には突き立てられたバタフライナイフと股間を固くした浩が残された。

浩は律儀に5分間、動かずにいた。

しかし頭は混乱していた。何かを考えようとすると、暴力的に目の前で繰り広げられた光景がフラッシュバックする。

「そろそろ5分かな」と浩は思う。

股間のほてりは治まらない。股間に手を触れようとしたその時、携帯が震えた…父危篤、至急墨東病院まで…浩の股間の熱はみるみる引いていった。

ホテルの窓から向かいのパチンコ屋を見下ろし、脇のテーブルに突き刺さっているバタフライナイフに目をやる。ぞわぞわと物騒な気分になった浩はそのナイフをチノパンのポケットに納めた。

…父危篤、至急墨東病院まで…まったく唐突な連絡である。

「これからどうなるんだろう」と浩は不安に思う、とにかく墨東病院に向かわねばならない浩は、ホテルをでて駅へと向かう、長いエスカレーターを下り改札を抜けホームに着く、新宿行きの列車をまっていると、わかんねぇ~だろうなおじさんが現れた。浩を横目で見ながら、ひたすらわっかんねぇ~だろ~な、わかんねぇ~だろうなとぶつぶつ言っている。浩はわかんねぇだろうなおじさんをさけ、列車の後方が到着するホームへと移動する。

携帯で時間を確認すると午後1時30分、列車内で浩は父親と母親の事を考えていた。

浩の父親は大手のパソコン会社の社内カンパニー制で、最近錦糸町にデータセンターを作る事になりリーダーを任されていた、浩の母親は秘書のような仕事をしていた。

「最近帰ってこない事が多かったし、激務が影響したのかな」と浩は思う。

そしてなぜだか浩は、もう秋も深まると言うのに、3人で毎年いっていたお花見の事を思い出していた。

近所のスーパーでお総菜と飲物を買う、浩はいつもポンジュースを買ってもらった、それから都営新宿線で東大島駅へと向かう、東大島駅のを降りると右手の桜の咲く団地街を抜け小松川公園に到着する、お花見会場である。

公園にはバーベキューをするグループや、カップルや、家族連れが陣取っている。かなり広い公園で、野球場が2つほど収まるかもしでない、中央の広場を桜の木が取り囲んでいる。

何年前だったかは忘れたが、隣の花見をしている家族が、川沿いに千本桜があるみたいだから行ってみようなどと言っていたのを浩は思い出した。

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