ヤンデレとフェニックス Ⅱ
「〈概念憑依〉レーヴァテイン」
俺は目の前で翼をはためかせているフェニックスに対して剣を構える。俺の剣には何者をも切り裂くと言われる異界の魔剣の魔力が宿っていく。それを見てもフェニックスは金色の花の前で静かに翼を揺らすだけだった。
おそらく花を守るだけで、自分から誰かを攻撃することはしないのだろう。
「喰らえ!」
俺はフェニックスに対して素早く剣を突き出す。それに対しフェニックスはかすかに体をゆすった。
すると俺の剣はフェニックスの翼をまっすぐに切り裂いた。一瞬やったか、と思ったがそれにしては手ごたえがなさすぎる。まるで水を切り裂くようにすっと剣が抜けていくのだ。
フェニックスの翼は俺の斬撃を受けて胴体から離れていくが、すぐに金色の光の粒が溢れて来て復元されていく。
「そうか、物理的な攻撃は効かないのか」
そして翼が完全に回復しきらぬうちに、フェニックスは無言で口を開くと金色の粒子を吐き出してくる。
「セイクリッド・バリア」
すぐにシオンが防御魔法を唱え、俺の前に魔力の盾が形成される。
が、魔力の盾は粒子に触れるとぐにゃりと溶けるように消えていった。俺は溶けるまでのわずかな時間で横に跳び、攻撃をかわす。
どうもあの粒には魔力を消し去る効果があるらしい。
「ならばこれはどうかしら……アースバインド!」
それを見て今度はルネアが魔法を唱える。
すると周辺に生えていた植物たちがみるみるうちに成長し、俺の体ほどの太さもありそうなツルや茎をフェニックスに対して伸ばしていく。
しかし、ツルや茎がフェニックスの周囲まで伸びてくるとまるで見えない壁に遮られるようにぴたりと止まった。
「嘘……あの花の魔力が私の魔力に勝っているわ」
背後でルネアが息をのむのが聞こえてくる。もしかしたらこの花は周囲の植物に対しても干渉することが出来るのかもしれない。
「それならこれはどうだ……〈概念憑依〉ストームブリンガー」
俺は次に嵐を呼び寄せるという魔剣を自分の剣に憑依させる。
「これでどうだ!」
魔剣を花に対して振り降ろすと、そこから魔力の嵐がフェニックスに向かって飛んでいく。するとフェニックスはゆっくりと翼で扇ぐように動かす。翼から風にあおられるように金色の粒子が現れ、嵐とぶつかる。
すると粒子に触れた魔力はことごとく消滅していった。
「これは厄介な相手だな。物理攻撃は効かないし、魔法による攻撃は消滅させられる。あの金色の粒子を上回る魔力量があれば倒すことも出来るだろうが……」
ここで俺は事前に考えておいた展開に持ち込むことにする。
フェニックスを倒すこと自体はシオンに攻撃魔法で援護してもらえば可能だろうが、今回の目的はそれだけではない。
「ルネア、俺に魔力を分けてくれないか?」
「ああ、本当は私がオーレンさんに魔力を渡したいのに出来ないのが残念です」
シオンが微妙に棒読み感のある口調で言う。
シオンの魔力は復讐神ヘラから授かったものであるため、ヘラを信仰していない俺に与えられないのは事実ではあるのだが、その言い方だと何だかうさんくさい。
が、幸いにも緊迫した状況であるせいかルネアはそれに気づかないようだった。
「わ、分かったわ」
少し戸惑いながらもそう言って、右手をおそるおそるではあるが俺の背中に伸ばす。彼女の温かい手が背中に触れると少しずつ魔力が俺に向かって流れてくる。
ルネアを騙すような形になってしまったのは少し申し訳ないが、俺に接触出来ただけで大きな進歩ではないだろうか。
「ありがとう、これならフェニックスを倒せそうだ……喰らえ、ソードストーム!」
俺は今度はルネアの魔力も同時に込めて剣から魔法の嵐を放つ。
フェニックスは再び翼をはためかせて金色の粒子を振りまき、魔法の嵐と衝突する。
粒子に接触した嵐は次々と消滅していくが、ルネアから流れてきた魔力により、消滅させられるよりも速いペースで嵐が噴き出していく。
「うおおおおおおおおおお!」
俺は止めとばかりに気合を入れる。
すると、俺の剣から噴き出した嵐は金色の粒子の膜を打ち破り、フェニックスに直撃した。フェニックスは一際大きく身をよじると、悲鳴を上げることもなく消滅した。
「ふう、どうにか倒したようだな」
それを見てルネアは疲れたせいか、その場によろよろと座る。魔力を消耗したからというのもあるが、苦手なのをこらえて俺に触っていたせいもあるだろう。
「ルネアもご苦労だった」
「いえ……でも私、今あなたに触れていたわ」
「そうだな、よくやった」
俺は彼女が腰を下ろしていたため、つい何気なく手を差し出してしまう。
すると彼女はごく自然に俺の手を取った。
「良かった……まだ全てが平気という訳ではないけど、自信がついたかも」
「それなら良かった」
が、そんな感動的な空気をぶち壊すようにごほんごほん、という咳払いの声が聞こえる。
「二人とも、忘れてはいけませんがここは危険な森の中です。そんな浮ついた雰囲気でいると危ないですよ」
「そ、そうだな」
俺はルネアが立ち上がると慌てて手を離す。確かにフェニックスを倒したとはいえ、金色の花がそれ以外の攻撃手段をもっていないとも限らない。
そんな俺に対してルネアはわずかにではあるが残念そうな表情を見せたが、すぐに気をひきしめる。
「そ、そうね! 町に戻るまで気を抜いてはいけないわ」
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