第76話 クラスと企画と訪問者
少しのざわつきの中でも会議は順々に進められて行く。視線を全体に流しつつ、そこまで大きくない声で
「とりあえず、挙手制で行くか。誰か案がある人は手を挙げてくれ」
それを合図にしたのか、花雲はチョークを手に取って構える。次々と積極的なクラスメイトたちが意見を交わし合い、板書が埋まっていく。それにやや追いつかないのか、字列が斜めになりつつも花雲は手を動かした。
迷路、縁日、お化け屋敷、演劇、etc……。一般的に人気のありそうなものから、果ては写真館やプラネタリウムなんていう少し変わったものまで出てきた。
教室を改装しなければならないものが多く、事前の準備や当日の配員が大変そうではあるが、盛り上がればかなり面白い企画になるだろう。
どんな企画が一番面白いだろうか。
来てくれる他クラスの人や一般客が楽しんでもらえるのは前提として、やっている僕たち自身が一番楽しめるものがいいだろう。こうも魅力的なものが多くては悩んでしまうな。
迷路は段ボールとか机を利用して仕切りを造る。縁日は射的や輪投げ、ヨーヨー釣りとかいっぱいあると楽しいだろう。お化け屋敷は……、黒い布で覆って明かりを消せばそれっぽい雰囲気は出るだろうか。
写真館は何を飾るのだろう。それぞれが撮影した写真とか? プラネタリウムについてはお化け屋敷と同じ要領でできるはずだ。
一人で勝手に想像が膨らんでいく。
どれもきっと楽しい。慧悟や智恵、初瀬川さんと一緒に回れるだろうか。そういや、従妹の瑞葉も来るんだっけ? とすれば、慧悟の妹さんも一緒に来るのかな。
やがて一通り出そろったのか、ある程度意見がまとめられて収束していく。
「あー、じゃあ多数決でいいかな?」
「読み上げていくから、一人二回まで手を挙げてください!」
「二回かぁ~」
「お前、もう決めた?」
「何がいいかなぁー」
「ぜってぇー、写真館はねぇって!」
口々に意見が広がり、再びざわめきだす。悩む人もいれば、既に決めている人も多いようで、今度はじっくり考える時間はなかった。
僕は何にしようか……。
悩んでいる間に箇条書きされた項目が読まれていく。さんざん迷った挙句、僕は人の多さにつられてお化け屋敷と縁日に手を挙げた。無難な選択だ。
順番に計数されたものから票が刻まれていく。一番多いのはやはりお化け屋敷と縁日だった。しかも同票で。その結果に慧悟は眉をひそめた。
「どうしたの?」
「いやー、毎年第一候補と第二候補を決めて提出するみたいなんだよ。ほら、ここに書いてあるじゃん」
「ほ、ほんとだ。どうしよっか……。もう一回、この二つで多数決してみる?」
そんな相談が聞こえてくる。慧悟が見せた紙を覗き込むようにして、少し赤面している花雲は背伸びしていた。肩と肩が微妙にふれあい、それに気づいては少し距離を取る。
「ごめん、みんな聞いてくれ」
慧悟がクラス全体に伝わるようにと少し大きな声を張り上げる。
「今数えてたら同票になったんだけど、もう一回この二つで多数決をとることにする。どっちかに手を挙げてくれー」
「お化け屋敷か、縁日ね!」
再び花雲さんが読み上げる。手を挙げている人を指で一つずつ数え、目線と人差し指が上下に揺れながら動いていく。僕は一応お化け屋敷に挙手をしておいた。中身に触れる機会はそうなさそうだからね。
ひとしきり数え終わった花雲は皆に背を向けて、お化け屋敷の下に26、縁日の下に13と書き込んだ。白い文字の下に赤いチョークで数字が映える。
お、お化け屋敷に決まったか。
そう思ったのと同時に、イエーイという歓声と拍手が巻き起こる。心から喜んでの拍手と同意したよと証明するような控えめな拍手が混じる。
「おーい、まだ決まったわけじゃないぞ。とりあえず第一と第二を持って行って、他クラスとかぶらないように決めなきゃいけないからな」
「ええー!」
「頼むよ~、慧悟ぉ」
「
「いや、応援されてもな……」
「困るよぉ~……」
クラスの声援に困惑する二人はその困った顔を合わせて、どこかおかしそうに笑った。そして
**
勉強するでもなく学園祭の準備に打ち込むでもないこの微妙な期間。校内に浮ついた空気だけが
いつもの代り映えしない光景の中に謎の人だかりとざわつきがあった。誰かが警備員と揉めているらしい。今思えばどうして興味本位で覗いたんだろうか。
いつものようにすぐに帰ればよかったものを。
「だーかーらー! お嬢の友達に用があんねん」
「ですから、身分証を提示してくださいって!」
「ないもんはないねん」
「でしたら規則なのでお引き取りください」
「ちょっとくらいええやんけ!」
どこかで聞いたことのある声。特徴的な関西弁を思わせる口調。
いつか見たアロハシャツに、しまりのいい黒のサングラスと煙草。
「あ」
「ん?」
ばっちり目が合ってしまう。
「おお!! お前や! 探してたんやで」
「ええっと……
「せや。覚えとったか!」
うろ覚えながら出した名前に快活そうに笑って応える。周りの反応を置き去りにして、典次さんは続けた。
「ほな、行くで。すぐのりぃや」
「はい?」
簡潔な説明すらなく、混乱している僕の体を引っ張って典次さんは外へ連れ出した。
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