第75話 僕らと議論と呟きと
クラスの実行委員に選ばれた
毅然とした態度で、みんなの前に立った。
「じゃあ。だいたいの係は決まったから、次はクラスで何をやりたいかだな」
話し始めれば自然と注目を集める。それが彼の人徳の為すところなのかはわからないが、喋り声は消えていた。
「例年何やってるかはここ書いてあるらしい」
「読み上げる?」
「だな。あと黒板に書いた方がいいかもしれん」
「わ、私がやるよ! 天馬くんは読み上げてくれるかな」
この学校では一年生が各クラスで出し物をする。昨年はお化け屋敷、縁日、謎解き、諸々の遊びを含めた脱出ゲームなどが行われたらしい。中には人海戦術で宣伝を兼ねたスタンプラリーもあったのだとか。
そして先日智恵が言った通り、二年生は体育館のステージ等を利用してダンスを踊り、三年生は各クラスで決めた食べ物を売る模擬店を行う。まあこれはどこの学校でも似た感じだろう。
一通りの例を読み上げたのか、慧悟は一つ咳ばらいをした。
「話し合いの時間もいるだろうから、十分後にもう一度聞くことにしまーす。あ、花雲。タイマーで測っておいてくれるか?」
「う、うん!」
そう言って、教卓の中に入っていたタイマーを取り出した花雲は時間をセットして黒板に張り付けた。ピッという機械音が鳴り、タイマーが作動する。
僕は一秒一秒音を立てて刻んでいく時計を見つめる。黒板の上に掛けられた大きな黒縁の時計だ。
慧悟の合図によって、皆は近くの人同士で話し出した。中には少し離れた席にいる人に近寄っていき、嬉しそうに顔を見合わせる者もいた。一気に教室の中が騒がしくなる。
こうも同時に喋ればお互いの声も聞こえないだろうに、なんてどうでもいいことを考えてしまう。あいにくこういう時に話す友達がいない僕にとっては、退屈な時間にすぎない。唯一の慧悟も今は教壇で花雲と会話をしていた。
だから一人、することもなく頬杖をついて目を閉じる。考えているふりをする。
時間が過ぎるのを待つしかないんだ。そうやってじっと席に座って待ちぼうけていると、僕の後方から笑い声が聞こえた気がした。
もしかして、笑われているんだろうか……。一人でいる僕を、笑っているんだろうか?
だがその心配は杞憂に終わった。
「ええー、いいと思うけどなぁ」
「でしょでしょ! お化け屋敷とかめっちゃ映えるじゃ~ん」
「まじやばみ」
「インスタに載せよーよ!」
そんな声が聞こえてくる。どうやらお化け屋敷をするという案について盛り上がっていたようだった。
だんだんと話し声は大きさを増していく。全員が一斉にしゃべるもんだから、途切れることのない音は反響して四方から返ってくることになる。
ああ、うるさいな。
元々静かなところが好きな僕としてはたまったもんじゃない。思わず頬杖をついていない方の手で、耳を塞いでしまう。音を防げても、ガヤガヤとした騒音自体を脳が理解しているからあまり意味はなかった。
ピピピッと少し高い機械音が響き渡る。十分が経過した合図だ。
「ん、じゃあ。みんな聞いてくれー」
「じ、時間でーす!」
二人の声がみんなにも届いたのか、少しずつ話し声が消えていく。それでも全員が口を閉ざしたわけではない。離れた席の方から、隣同士でこそこそとしゃべるような音が聞こえてくる。
静かな空間だからか余計に響いて聞こえた。
「ちっ……」
「ほんと調子のってんな」
「うざ」
小さくもその大きな悪意は確かに僕の耳に届いて消えた。
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