第50話 デートの誘い方
緊張しているせいか、喉が渇いている感覚がする。唇が乾燥し、何回も舌で濡らした。それでも声をかけねば始まらない。
「あの、
「なんですか?
少々上ずった声が出た。何度もつばを飲み込んで自分を
「えっと、おすすめの場所があるんだけど、よかったら……」
「食べ物屋さんですかっ!?」
必死に脳内でシミュレーションしていた言葉を吐き出した。実際にはおすすめの場所なんて知らない。この地域に特別詳しいわけでもないし、そもそも調べる時間もなかった。だからこれはでたらめだ。
なんとかしてデートになる口実を作りたいだけのエゴだ。
だが、僕が言い終わる前に智恵が食いついてくる。
「いや食べ物屋もあるけど、他の場所もよかったら……」
「じゃあ行きます! 一緒にすぐに行きましょう!!」
「え、あ」
誘い終わる前に智恵は賛同の意を全開で示してくる。そんなに食いついてくると、逆に僕の嘘がうまくいくのか心配になってしまうんだけど……。というか、『じゃあ』ということは食べ物屋じゃなかったら一緒にきてくれないのだろうか。いやまさかね。
今は深く考えないでおこう。
「あ、
すでに行く店での食べ物のことを考えていたのか、少し上の空だった智恵がふっと思い出したように聞いてくる。
純粋な疑問の目だ。
四人で楽しもうという雰囲気で他意はなさそうだった。
どうしようか……。僕的には別に四人で回っても問題はないのだが、これでは智恵とのデートができなくなってしまう。
後で
ぐちぐちと言われるのは嫌だ。
かといってここで智恵だけを誘うのも難しい。結局は二人に外してくれ、って言っているようなものだ。二人が嫌なわけではないけどダメだなんて言ったら、智恵になんて思われてしまうだろう。
「……雄馬くん?」
何も答えない僕を不審に思ったのか、智恵が首をかしげて僕の顔をのぞき込んでくる。ぱっちりとした目と僕の眼が合う。思わずその仕草にドキッとしてしまった。
「いや、えっと、二人だけで……行きたいなって……」
気づけば頭で考えていた言葉を口にしていた。長い長い溜めを挟みながらの言葉だった。彼女のことを意識してしまったからかもしれない。
二人で、という言葉を無意識に強く発音していた。
その真意が伝わったのか、智恵は
「え、あ、それはつまりデ……」
言いかけたところで中学生組が割り込んでくる。野暮だとはわかっていても、堪えきれなくなったという声音だった。
「熱いよ雄馬にぃ! 熱すぎるよぉ!」
「あたしたちのことは気にせずに、お二人でデ、デートしてきてください……」
瑞葉のニヤニヤした表情。顔を背けて笑いをこらえている圭奈。二人とも同じように顔が赤くなっていた。少し離れたところで僕たちのことを見ながらそんなことを言ってくる。
あ。
今更ながらにして気づく。というか、なぜ忘れていたんだ。
「もしかして、聞いてた?」
赤面するのを感じながら、とっくに答えが出ているそんな問いをぶつけた。聞いたというより、確かめたという方が正しいかもしれない。
「「もちろん!!」」
やけに嬉しそうな解が
そっと横目で智恵の方を
彼女もそれを意識したのか、僕と目が合う。これでもかと顔を赤くし、うぅーとうめきながら顔を逸らした。
そんな仕草にまたドキッとしてしまうのだった。
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