第49話 温泉街の思い出作り
十数分ほどバスに揺られて、僕たち六人は目的の温泉街に到着した。
「うぉ! 思ってたより人がいるな」
「外国人の方が多いんじゃない?」
観光客の団体に
普通に露店もあれば、ちょっとした飲食可能なスペースのあるところもある。
ちょうど僕らの横をアジア系の外国人観光客の団体が列をなして通りすぎていった。手には大量の荷物や土産袋を抱えている。爆買いというやつか。
「ここは観光スポットなんですかね……? あれ、
傍にいた
いやいやまさか。
高校生にもなってそんなことはないと思うんだけど……。
「すごいです! この味は初めてです。おじさん、もう一つおまけしてもらえませんか?」
「ええー。しょうがないなぁ。じゃあさっきのに一つだけだよ?」
「ありがとうございます!」
近くの露店からそんな会話が聞こえてきた。
やけに嬉しそうな聞いたことのある声。褒められて照れ臭そうにしている店員らしき声も聞こえた。ってかこの声は智恵じゃないか。
お店の主人と交渉をしている智恵。その手にはすでにいくつかの食べ物が握られている。その店ではおやきを購入していたらしい。
なんという行動力。
「ちょっと智恵さんー、勝手にいかないでくださいよぉ」
瑞葉が駆け寄っていったかと思うと、同じようにその店でおやきを購入する。どうやら瑞葉も食べたかったらしい。
「俺らも物色すっかぁ」
独り言のようにぽつりと慧悟が言う。視線で追うと、それはただ一人に告げられた言葉だった。
一瞬だけ僕と視線が合った。
かすかに唇が動く。
『がんばれよ』
そう言われた気がした。
慧悟がこれから初瀬川さんと何をするのか僕には知るよしもない。彼らもこの地で思い出を作るのだろう。二人だけの思い出を、だ。
この数ヶ月間で二人を見て思った。
あの二人はただの幼馴染という感じではないように思う。なにかもっと特別な関係……のような。言葉ではうまく表せられないな。なんだろうか。
初瀬川さんとはほとんど中学の時にほとんど話したことがないせいで、未だにどんな人なのかつかめないでいる。慧悟と仲が良いのはわかるが、さすがに直接聞くのも
「僕も智恵たちのところに行くか……」
二人の姿を最後まで見送ってから、智恵たちがいる露店へと向かった。
「私的にはこっちの味の方がおすすめですよ」
「えー、私はこっちですかね。
「あたしもこっちか」
しかし三人で仲睦まじく会話をしている中に、うまく入れない……。遠目から眺めるという、ちょっとストーカーみたいな構図になっている。
「あの、智恵……さん。えっと、その……」
なんていえばいいのかわからず、ただそんな言葉が出てくるばかりだ。
もはや混乱して敬語まで出てくる。
友達一人に声をかけれない自分が情けなくなってくる。慧悟と約束したはずなのに、うまくやるって約束したはずなのに、まだ迷っている自分がいるのだ。
自分が智恵に声をかけていいのか、そんなことすら決断できない自分がいた。
「雄馬くんはどれが好きですか?」
僕の存在に気づいた智恵が声をかけてくれる。
「え、あ、僕はこっち、かな……?」
差し出された二つのキーホルダー。赤色と青色のハートのようなものだ。
いきなり差し出されたこともあって、僕は直観的に赤色を指さした。
「わあ! 私と同じですね! やっぱりこっちの方がいいですよぉ」
そんな適当に指しただけなのに、心から嬉しそうな表情を見せる。
自然な形で三人の中へと僕を誘導してくれる。
なぜだか輪に入れた時にほっとため息が出た。安心したからなのか、情けない自分にため息を吐いたのかわからなかった。
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