第46話 僕と義眼と戦略家

 カーテンの隙間から太陽の光が差し込んでくる。その光が僕の顔を照らしたせいで目が覚めてしまった。


「うーん……」


 布団の中で伸びをする。目は覚めたと言っても、まだ頭や体が覚醒していない。このまま再びじっと温もりを味わっていれば自然と二度寝できるだろう。惰眠を貪るのも悪くはない。

 昨夜は少し疲れた。布団の中で考え事をしていたせいで、睡眠が十分に取れていなかったのかもしれない。いつの間にか眠ってしまったのか、最後の記憶がなかった。

 なにかいい案を思いついた気もするが、うまく思い出せない。

 

「ん、起こしちまったか? 悪いな」


 隣の布団からそんな声をかけられた。僕より先に起きていた慧悟けいごはちょうど浴衣から着替えている所だった。


「いや、普通に目が覚めただけだよ」

「ちゃんと眠れたのか?」


 体を起こしながら答える。

 目をこすって僕を見ながら、慧悟は笑いながら準備を進めていく。

 って、いつまでもぼおっとしている場合じゃない。僕も早く準備しないと。


「そこの自販機行ってくるわ。朝食もあるし、八時半までに準備しとけよ?」


 慧悟の視線に促されて壁に掛けられている時計を見上げると、七時半を少し過ぎていた。あと一時間か。もうちょっと時間はあるけど……。

 慧悟が少し急いでいるように見えたのは気のせいかな?


「話も長引きそうだし早めに帰ってくるからよ」

「……え?」


 今、なんて……?


「ん、俺に言うことがあるんじゃねえのか? また義眼になんかあったんじゃねえの?」

「……なんでわかったの?」


 本当に一言も言ってないはずなのに。朝起きて一言交わしただけなのに。どうして慧悟はすぐに僕のことをわかってしまうのだろう。


「お前のことなんてすぐにわかるっての……って言いたいところだが、実は昨日の夜に部長たちがお前を連れて風呂に行ったことは知ってんだぞ。そのあと寝ないで起きてたろ? まあそこから察するに、また義眼じゃねえのかなってな」


「なんだ……って、あの時起きてたの!? なんで一緒に行かなかったのさ!?」


 慧悟が起きてたなら僕が一人で悩む必要もなかったのでは……。まさかわざとあの状況を作り出したのか。まぁあの時間帯から相談なんてしようとは思わないけど。

 眉間にしわを寄せてじっとした目線を送ると、慧悟は少しいたずらが成功したような顔を見せた。


「いやーおまえにも青春イベントを楽しんでもらいたかったんだけどなー」


 歯をのぞかせてふざけて見せる。


「もう。いいから自販機行ってきなよ……」

「はいよ」


 リラックスしたのか両手を頭の後ろに組んで部屋から出ていくのだった。



              **



「なるほどね。今回は相当イレギュラーだな……」


 宣言通りすぐに部屋に戻ってきた慧悟に僕が視た一連の内容を説明すると、すぐに状況を飲み込んだのか納得した声を上げた。手元のコーヒー缶を呷る。

 毎回思うけど、慧悟は本当に頭の回転が速い。当人の僕でさえ一時間ぐらいはしっかり考えながら整理したのに。話し始めてからまだ十分しか経っていないんじゃないか?


「とりあえず今日は何か起きるってことだよな。すぐにあいつらに教えてここから離れればいいんじゃねえか。簡単だろ」

「いや、それはそうなんだけど……。智恵たちになんて言ったらいいのか……」

「義眼のことは話せないし、こんなありえない話をしても信じてもらえないってか?」

「……そう、です」


 僕の危惧していることをそのまま彼は言い当てた。

 はぁ、と重いため息を吐いて慧悟はあきれた表情を僕に向けた。


「そんなのテキトーな嘘をついて、こことは違う場所に行けばいい話だろうが。別にいついかなる時も正直じゃなくたっていいんだよ。緊急事態なんだからそこは臨機応変に対応すればいいじゃねえか」


 まったくもって正論だ。

 まさにぐうの音もでない。慧悟の話を聞いて、僕は何を悩んでいたんだろうかと思ってしまった。

 そうだ。別に正直に言わなくても彼女たちを救う手段はたくさんあるじゃないか。

 そうと決まればすぐに実行しなければ!!

 本当に慧悟には助けられてばかりだ。僕一人ではこの義眼と向き合っていけない。

 だけど。

 この最高の友人がいれば何とかなるかもしれない!

 そんなことを無責任に思いながら食堂に向かったのだった。

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