第33話 望まれたカタチと望んだ形
試験が終わると再び部活動が始まる。
それは
「まあ気まずいのはわかるけど、部活始まってんだぞ」
終礼が終わるなり、
「お、ちゃんと来たか」
慧悟はニヒヒと笑った。
「なんでしょう?
目に疑問の色を浮かべ、若干上ずった声で聴いてくる。緊張でごくりとのどが鳴る音が聞こえたが、それが彼女のものなのか僕のものなのかはわからなかった。
「えーと、その、あ――」
「あ……?」
頭では言うべき言葉はちゃんとわかっているのに、なぜかその言葉は消えていく。口が金魚のようにパクパクと動くだけで、音はなかなか出てこない。
たった五文字。
それだけなのに。それだけが出てこない。
「そういえば部長。こないだの家庭教師の件引き受けてくれたよな。ありがとな」
慧悟から助け舟が飛んでくる。
「僕も、ありがとう」
完全に便乗した形だが、タイミングに合わせて言うことができた。我ながら情けなく思う。友達に助けてもらわなければ、お礼の一つも言えないのだから。
『他人に感謝ができる人間になりなさい』、と母さんはいつも言っていたのに。お礼を言うことの大切さは身にしみてわかっていたはずなのに。僕はそんなことも忘れてしまったのか。
胸に痛みが走る。下がりつつあった僕の視線は彼女の声で再び戻される。
智恵は僕に向かって微笑んだ。
「どういたしまして。困ったらいつでも頼ってくださいね」
なんて温かい言葉だろうか。
素直にそう感じた。自然と心が温まってくる。
僕は、また智恵に頼っていいのか。助けるだけじゃなく、助けられてもいいのか。そんなことを思った。相互的な関係を築くことを考えていい、のか。
「そんじゃそろそろ部活はじめよーぜ」
「あ、お悩みメールチェックしますね」
「お菓子食べよー」
僕と智恵の会話が終わったタイミングで、慧悟がうまくつなげてくれる。
慧悟は鞄から漫画を取り出して、智恵が部室に設置されたパソコンを起動し、初瀬川さんは棚に保管されたお菓子を机に広げた。
それぞれが自由に、それぞれの興味のあることを好きなように行う部活。
この部活はそれぞれの興味のあることをすることで成り立っている。一人一人していることは違うけれど、それに否定も批判もなく、それぞれが楽しく過ごしている。
こんな風景を見ながら、僕はこの部室がとても居心地が良いと感じた。
これが初瀬川さんの言っていた『居心地がいい』というやつなのだろう。僕も知らない間に求めていた感情だ。
この部活が続いていきますように、そう神様に声をかけた。
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