第32話 自慢と感謝とアドバイス

 智恵ともえとの勉強会でいろいろなアドバイスを受けた僕は、数学のテストを全て解き終えることができた。一年前に学習済みということもあり、対策を教わった。

 基本的にわからない箇所にこだわらずに、解ける問題からやっていくそうだ。そうして最後まで目を通してから、できなかった問題や曖昧なままの問題に時間をかける。その方が効率がいいし、なにより正答数が増えるという。

 僕がわからなかった確率の基礎問題を練習させ、参考書から酷似した問題をいくつかさせてもらったのだが、実際のテストではそれと全く同じ傾向の問題が出たのだ。思わず心の中でガッツポーズしたくらいだ。

 かなりの手応えを感じた僕は、今までにない喜びを味わっていた。

 そしてこの勉強会で僕は、主席ほどの勉強家になれば単に復習するのではなく、テストに向けた対策まで完璧にこなすということを実感したのだった。

 今日はその期末試験の返却日である。高校での最初のテストだったということもあり、少し浮かれた気分だ。

 あの日の勉強会はいわゆる一夜漬けの形ではあったが、確実にポイントを押さえて点数に繋げるという方法だった。その方法が効いたのか、テスト中にニヤニヤしてしまうくらいには問題が解けた。


「ええと、とりあえず平均点はぁ――」


 数学の教師はメモした紙を見ながら黒板にその数字を記した。

 63点。

 まぁまぁな平均点だと思うが、先生はその数字にどうやら少し不満げなようだった。すぐに返却へと移り、名前を呼んでいく。僕の出席番号は早い方なのですぐに取りに行った。

 問題が解けた実感があるとはいえ、点数を見るまでは安心できない。鼓動が少し早くなるのを感じながら、僕はゆっくりと折られたテスト用紙を開いた。

 彼女から得た成果は当然のごとく僕の点数に反映されていた。返ってきた点数は84点。所々に計算ミスはあったものの、八割を超えたのはかなりの好成績だと言えるだろう。

 クラスの平均点を二十点近く上回ったことになる。


「とりあえず一位の点数だけ言うわ。97点な」


 一瞬僕の名前が呼ばれたのかと思ったが、淡々と公開された数字を聞いてすぐに安堵した。先生は答えが書かれた用紙を配り、「間違ったところがあれば持ってきて」と一言いうと、黙って教卓に座ってしまった。


         **


 その後の授業はほとんどテスト返却に当てられ、間違いが多かった問題の解説や中には点数が間違っている生徒の手直しだとかで午前の授業は終わりを迎えた。数学以外のその他諸々の教科もさして悪くはなく、全体の平均点は70点となかなかいいと思われる。学年での順位も公表され、ギリギリ二桁に入り込むことができた。


雄馬ゆうま! お前どうだったよ?」


 慧悟けいごはニヤニヤしながら、僕の肩に手を回して聞いてきた。


 中学の時の点数は人に教えるほどよくはなかったが、今回の点数は教えれる、というかちょっと自慢できるかもしれない。

 すると慧悟は聞いてもないのに、自分の結果をいってきた。


「俺、28だったわ」

「え!?」


 28点というと赤点じゃないか? 確かこの学校は35点以下を赤点として設定していたはずだ。そして赤点をとった生徒にはその分の補修を課していたはずだ。

 それにしても慧悟はもともと成績はよかったはずなのにそこまで下がるなんて。調子でも悪かったのだろうか。


「あ、言っとくが点じゃねぇぞ。順位だからな」

「え、あ、なんだ。てっきり赤点かと……。って、28位!?」

「学年でな」


 それだとかなりの好成績じゃないか。


「五教科で447点くらいだったかな。お前はどうなんだ?」


 もしかして僕に自慢しに来たのだろうか。それより僕の点数と100点位差があるんじゃないか。なんだか急に言いたくなくなってきたな……。


「まあ俺に言わなくても、家庭教師に伝えるのは義務だと思うぜ」


 そうだ。

 家庭教師をしてくれた智恵には伝えなければならないだろう。それが僕の通すべき筋ってもんだ。

 テストが終わった今日からまた部活が始まる。

 勉強会で多少はしゃべったと言えど、それとこれでは別の話だろう。部室にまたあんな空気が流れてしまうのだけは避けなくては。

 結局勉強会に参加せずに帰った慧悟には考えがあったのだろうと、今更にして思う。わざと僕と智恵の二人にしたんだ。場を作ることで話がしやすいようにと。

 そうでもしなきゃまず会うこともなかっただろうし。

 智恵にもだが、慧悟にも感謝しないとな。

 とりあえず部室に行ったときに、勉強を教えてくれたお礼はしっかり伝えようと決めたのだった。




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