第23話 自由による自由のための自由な部活
僕が探求部に所属してから一週間が過ぎた。
再び
逆に言えば杞憂で済んでよかったのだ。それでも僕が彼女と関わってしまったせいで、その分変わった未来もあるはずなのだ。僕があんな未来を視なければ、そもそも出会うことすらなかった。いまさら何を言っても過去は変わらないが、たらればの話をしてしまいたくなる。
だからこそ僕らが出会えたのも奇跡だと言ってもいいんじゃないだろうか。
この関係を大切にすべきなんじゃないだろうか。
義眼を持つことは僕自身の選択だからこそ、義眼を通して視えた分はしっかり対処したいと考えるようになったのも事実だ。
しかし残念ながら正の感情が増えれば、負の感情も反比例して増えていく。期待すればするほど、それが満たされないときに落胆するものだ。
友人と呼べる存在がまた一人増えたことは、僕にとって喜ばしいことだと思ってよいのだろうか。
そんな不安めいたものが僕の心に
「それにしても暇だなぁ、ねぇ部長」
「ちょっと慧悟くん! 漫画は部室に持ち込むのはダメって言ったじゃないですか」
「することないんだよ」
「それとこれとは話が別です」
この部室は完全に(慧悟によって)娯楽類で満たされてしまっていた。菓子類は智恵が持ってきていたりしていたが、ゲームや漫画といった学校に持ち込みを禁止されているものは部室でも注意していた。
「おいいいのか? マンガが無くなったら雄馬が部活やめるかもしれないぞ」
だが、こうして僕を餌にして慧悟は次々と持ち込むことに成功していた。
「そ、それは……仕方ないですね。
なぜか智恵は僕を引き合いに出すと、語気が弱くなり許可を出す。それに味を占めた慧悟はにやりと笑って、そのまま漫画を読みふけっていた。
僕をダシに使うなよ……。僕は漫画を読みに部活に来ているわけじゃない。それと智恵もこっちをチラチラと見ないで欲しい。
慧悟の方を横目で見ると目が合った。小さく舌を出して、口角を上げていた。
「あ、ねぇ慧悟。そっちのお菓子とってくんない?」
「ん、コレ? ほいよ」
「ありがとー」
ここ最近は初瀬川さんも部室に来ていた。
まあ部活に参加しているというよりは、慧悟同様に、お菓子を持ち込んで食べながら携帯をさわっているだけなのだが。
なんだこれ。部員の半数はここが学校ということを忘れているんじゃないだろうか。
なんにせよ、この部活は自由なのであった。その日の参加すらも自由。来て何をしようと自由。自由過ぎて逆に不安になる。
まさに自由という二文字がこの部活のためにあるのではないかと思うくらいには自由なのであった。
かくいう僕もただ椅子に座って読書をしているだけなのだが。ただ読書といっても、慧悟と同じ部類ではない。普通に図書室で借りた文庫本である。
タイトルは『地下室と手記』。作者名に覚えがあったので手にとってみたのだった。二十年ほど地下室で暮らす男が自分の過去を追憶する話である。自意識過剰な「ぼく」が周囲との軋轢を恣意的に乗り越えていく。そんな状態がどこか僕に通じるものがあるような気がして、ページを繰る手はしばらく止まらなかった。
しばらく静かな時間が続く。
外からは部活に勤しむ元気な声が聞こえてくるのだが、この部室はそうではなかった。
そんな四人のなかでそうではないものが一人だけ存在するのも事実なのであった。
そう、智恵だ。一人ノートにペンを走らせている。時折少し分厚い参考書をにらめっこしては、合点がいったのか嬉しそうな顔をしては赤ペンで丸を付けていくのだった。
ずっと勉強をしているのだ。放課後にやるくらいなら家や図書館のような集中できる場所に行った方がいいと思うのだが……。
「えっと……智恵、さん? テストかなにかあるんですか?」
気になって聞いてみる。呼び捨ての一件を思い出して拙い敬語になってしまった。そんなそわそわした状態が伝わったのか、智恵は少し不思議そうな顔をして答えた。
「今週の復習と明日の予習ですよ。あと、別に敬語は使わなくていいですよ? 気軽に呼んでくれてかまいません。逆にタメ語でお願いします!」
「あ、うん」
「さあ!」
呼んでくれていい、というのは呼び捨てでいいと解釈していいのだろう。まあ部員の中で一人だけ先輩だから、敬語を使われるのが窮屈なんだろうか。逆にそうしろというのなら、僕も気を遣わなくて済むから楽なんだけど。
それにしても予習復習とは実に勉強熱心だな。
僕はテスト期間が近づいたときにしか勉強しない
どうやら彼女は真面目なようだった。性格の根底が真面目で固められているのであった。
前に聞いた話では智恵は成績上位者だとか。教科単位なら一位を取ったこともあるとかないとか。
さすが学年一位だ。首席の成績はこうして保たれているらしい。日々の積み重ねという奴か。
そんなことを思った。
また一つ、彼女のことを知った一日であった。
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