第17話 ストーカーの解決方法

「ちょっと助けてくれない慧悟けいご!?」

「何かあったのか、雄馬ゆうま


 僕の悲痛に満ちた叫びをなんでもない風にさらりと流して、いつもと変わらない態度で返事をする慧悟。才条さいじょうさんが僕の教室に来て、お昼を一緒に食べようと声をかけてきたあの日から一週間、僕はずっと彼女のストーカーにあっていた。

 毎日毎日弁当を持ってきては僕をあの部室に連れて行こうとする。あの手この手を使って断っていたのだが、もはや言い訳のネタも切れてしまっていた。

 タイミングをずらして会わないようにとも考えたのだが、朝は僕のクラスのロッカーの前で待ち伏せし、帰りは僕と一緒に帰ろうとしてくる。完全にマークされた一週間だった。

 どうやら僕のことを調べつくしているのか、校内でも偶然とは思えない出会い方をすることもあった。完全に先回りされている……。ちょっと恐怖すら感じた。

 もちろん何度もやめるように言ったのだが、全く耳を貸してくれなかった。

 慧悟は僕の話を一通り聞き終えると、


「なるほど。部長が最近部活に来なかったのはそういうことか」

「知ってたんならなんで止めないのさ!」

「部長は好奇心が異常に強い人だから、一度興味をもった人にはずっと付いて回るらしく……」

「もう聞きたくない………」


 もうどこの警察に行けばいいんだか。女性が男性にストーカーされてニュースになるなんて言うのは聞くが、その逆はあまりないだろう。いや、よくあると言われても困るけど。


「そういえば、僕のことを教えたらしいね」

「え、いや、なんか流れでな」

「そのせいで才条さんが僕のところに来たんだけど」

「ちょっ怖い! やめて悪かったって! お詫びになんとかするから!」


 間接的にはとはいえ、彼女が僕に興味を持ったからといってあんなに執着するのは少しおかしいと思った。僕の名前やクラスなんて一度も僕から話した記憶がないのだから、どこからか情報が流れているに違いない。まぁ、その情報源というのもある程度限られてくるし、僕と彼女二人に接点があるのは慧悟しかいないだろう。

 だから少し責任を取ってもらおう。

 罰は当たるまい。

 本当に今すぐなんとかしてほしいのだ。このまま僕にかまっているせいで、余計なことまで知られたくない。この義眼についてはおいそれと人に話せるものではないのだから。

 唯一知っている慧悟にも他言無用という約束をしている。こんなものが周囲に知られたら……。『赤の世界樹』はじゃないといけないのだ。


「それと、この眼のことは言ってないよね?」


 一応確認しておく。周囲にいるクラスメイトにも聞かれないように、僕は極めて小さな声を出した。


「それは絶対言わねーよ」


 約束だからな、と言外に含んだ目を向けてきた。はっきりとした開けられた目には強い意志が感じられる。彼なりの信念のようなものが浮かんでいた。

 僕はほんの少し安心して、小さく吐息を吐いた。

 今のところは無事かもしれないが、義眼の正体が好奇心旺盛な彼女にバレてしまったらどうなってしまうことやら。きっとずっと探り続けられるだろう。それは絶対嫌だ……。


「お! 思いついたぜ、ストーカーされない方法」


 突然降ってわいたかのように、顔を上げた慧悟は手をポンと打って言った。


「え、本当!?」


 それは助かる。彼女から距離を取ることができるなら、すぐにでも試したいものだ。視線でその方法とやらを催促すると、


「おう。雄馬が『探求部』に入ればいいんだ」

「………え?」


 何か思いっきりずれた答えが返ってきた。

 いや、確かに僕が探求部に入ればストーカー行為自体はなくなるだろうけど、彼女と一緒にいることにはかわりないだろう!

 それじゃあ本末転倒じゃないか。

 これ以上の彼女との接点を減らし、義眼に関して探りを入れさせないようにしなければならないのが一番優先することだ。それなのに……。どうしてそれが解決方法になるんだ。


「俺と一緒だと、部活の時はある程度セーブをかけられるから一石二鳥だぜ?」

「まあ、そうかもね……」


 なるほど、そういう考えか。確かに慧悟がいれば少しはあのキラキラとしたまぶしい視線から逃げることができるだろうか……?

 こうして僕は不本意ながら探求部に入ることに決めたのだった。

 

「ああ、一石三鳥かもな」


 話は終わったかと思った瞬間に、再び慧悟が口を開いた。


「どうしてさ?」


 意味がわからず聞き返す。僕が探求部に入ることでどんな三つ目の利益があるっていうんだろうか。


「部長と仲良くなれよ。お前はもう少しラブコメってもんを知るべきだ」

「は?」


 そうでなきゃ俺の物語が面白くない、と言った後でにやりと頬をあげた。その笑みを受けて、早くも僕の決意は揺らぎ始めてしまったのだった。

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