第2話 友と義眼と視る力

 ストーキング。

 それはこの世においても特筆されるべき卑劣な犯罪である。人のプライバシーを踏みにじる最低の行為だ。

 旧来の「人に見られたくない」から、昨今の「人に見て欲しい」というプライバシー概念の変化はさておき。

 物事にはなんにでも絶対に越えてはならない線というものがある。

 そう、その集合体こそが法律なのだ。

 急にこんな堅苦しい話をし出しているのには、ちゃんと理由がある。ま、まあ言い訳なんだけどね。かく言う僕は今何をしてるかと言うと……。

 絶賛ストーカー中なんです。


「まったく。何をやってるのかな、僕は」


 すぐ目の前を歩く少女に向けたわけでもなく、そんな独り言がため息とともに漏れ出た。

 数メートル先を歩く彼女は、背後から観察するストーカーには気づく素振りもなく、帰路を辿っていく。

 別にストーカー行為を趣味や生きがいにしているわけでも僕が、なぜこんなことをしているのかというと、それは少しばかり時を遡ることになる。



               **



 朝の学校への登校中、それは不意に訪れた。

 見通しの悪い十字路の角を曲がろうとした時、それは視えた。フラッシュバックとでも言えようか。

 なんにせよ、今僕が歩いているこの道路を曲がった瞬間に猛スピードでトラックが走ってくる光景が電子案内板に表示されるように視えたのだ。

 見通しが悪いうえに、この路上には信号も横断歩道もない。

 ましてやそこに猛スピードで突っ込んでくる一トンをも超える巨大なぞ、一体だれが予知できようか。

 

 ただこれは現在の話ではない。


「……ッ!!」


 自分の身に起こったかのような気持ち悪さがこみ上げてくる。リアルではなくとも、その衝撃は想像するのは難しくなかった。良くも悪くも、一度体験しているだけにとても他人事とは思えない。


「また視ちゃったか……」


 僕が中学三年生だった時、家族でドライブに出かけた先でトラックとの交通事故に巻き込まれた。僕を守ろうとしてくれた両親は即死だった。

 僕自身も右目を完全に失った。

 流したくとも流せない涙をどれほど悔やんだことか。絶望と孤独に襲われて、病室のベッドを何度も拳で叩いた。シーツを引き裂こうとしたこともあった。死にたいと願ったのも一度や二度ではない。

 失った右目の代わりに手にしたのは真っ赤な義眼だった。それこそが後に判明する『赤の世界樹』。

 もっとも教えてくれたのは友人だったけれど。

 こうして僕は視る力を手に入れたんだ。





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