004 勇者が使うような聖剣とか

「言葉は分かるか?」


女性の声が聞こえた。

優しい訳でもないが威圧的という訳でもない、芯が通っている声。


「言葉が分かるならばその場で動かずに両手をあげてほしい」


声に従い両手を上げる。

先程の光につぶされた視界が戻って来た。

どうやらフードコートに居た位の人数が周りに居るように思う。

ちなみに大人はあんまりいない。だいたいが高校生など俺と同世代位だろうか?

だからか、この状況に対応できる者などいなかった。


そして俺らの周りを鎧を着ている人達が囲んでいる。

両手をあげている俺らの間を、鎧の人が通って何やら確認していた。

そのまま1分ほどが過ぎ確認が終わったようで、正面にいた恐らく一番偉い人に耳打ちしていた。


「ふむ。なるほどな、仕方ない……」


どうやら正面の人が先ほどの声の女性みたいだ。鎧を着ていて顔が分からないが多分そうだろう。

その人は暫く考えこんでいたようだが遂に声を発した。


「今回諸君らを召喚したのは他でもない、我らの世界ミルジアードを救うという伝説の勇者を探すためだったのだ。突然の召喚に驚いたであろうと思う、すまなかった」


女性の言葉に周りがざわつく。

てかまたかよ。え?こんなに召喚されるもんなの?おかしくない?


「ミルジアードを救う伝説の勇者には『手の甲に紋章がある』と言われている。先ほどそれを確認させてもらったのだが、諸君らの中にはいなかったようだ。」


なにそのトライ〇ォース的なの。

というかこの中にいないのかよ、誤召喚ってことかね?


「例え力があったとしても伝説の勇者以外に力を借りるわけにはいかん。こちらから勝手に召喚しておいて本当に身勝手だとは思うのだが、諸君らを元の世界に送らせてもらう」


なんか色々と言いたい事はあるがどんどんと話が進んでいったな。

呆然としていると、例の女性が「良い事を思いついた」とでも言うように手を叩いた。


「勇者が来た時に備えて準備していたものがあったのだ。詫びと言ってはなんだが、その中の一部を諸君らに贈ろうではないか!」


召喚されたこちら側は勿論、周りに居た鎧の人達もざわつき始めた。

鎧の人が女性と口論しているようだがこちらに聞こえないようにしているのか声が届かない。


「なぁ開斗、あれかな?勇者が使うような聖剣とか貰えたりすんのかね!?」

悠司バカはどこでも空気を読まないというか、何というか……


呆れていたらどうやら向こうは話がまとまった様だ。


「諸君ら、今から持ってくるものは我が国の宝物庫に伝わっていたものだ。ただし、万が一を考え殺傷能力のあるものなどは除外している。すまんが理解してくれ」


流石に強そうな武器とかはもらえないっぽい。

まあ、ある意味俺らって侵入者と変わらないからな。仕方ないか。

鎧の人達がどんどん宝物を持ってくる。

大きなワゴンに乗っているものだったり、数人でやっと運んでいる壺みたいなのやらあって、こんな状況でも正直心が躍る。


「さて、諸君らにはこの中から選んでもらいたい。手に取って試したりしてくれたまえ。勿論、壊す事の無いようにだ」


その言葉に俺らは一斉に動いた。

テレビで見たような煌びやかな宝石やアクセサリー類だったり、正直何に使うかよくわからないが恐らく魔道具みたいなもの(なんか浮いてたから多分間違いない)を手に取る人たち。

そして武器は無かったのだが鎧はどうやら大丈夫だったようで一部の人らはそれを着させてもらったりと、みんな子供みたいにはしゃいでいた。

まあ半分以上は子供っていうか未成年だろうしとやかく言わないでおこう。


みんながキラキラしたものだったりこれぞ宝物!って感じのやつを手に取る中、俺は何故か隅に置いてあった古ぼけた一冊の本に心を奪われていた。

周りの物を見てもこの本だけがどうしても浮いていて、本当に宝物庫に在ったものなのか疑ってしまうくらいの見た目をしている。

持ってみると広辞苑より量があるだろう本にしては不思議なくらいに軽い。

表紙に題名は無くパラパラと適当にページをめくるとところどころ挿絵があり、たまに魔法陣みたいなものも描いてあった。

恐らく魔導書か何かではないかと思った俺はこの本にする事に決めたのだった。



そして俺以外の人達もどうやら貰うものは決まったらしい。

皆選ぶときは真剣になっていたようであまり声を出していなかったのだが、今はもう全校集会の前よりも騒がしい。


「さて諸君、どうやら選び終わったようだ。それでは元の世界に還させてもらう。こちらの都合で振り回してしまった。重ねて詫びさせてくれ」


女性はまた頭を下げていた。

多分この世界の偉い人なんだろうけど腰が低いというか……今回はイレギュラーなのかな。


「そういえば、私は最後まで名乗っていなかったな。すまない。私はミルジアードに選ばれた聖騎士、ミラム・エクシールという。」


ミラムさんが顔を覆っていた鎧を取った。

周りから息を飲むのが聞こえた。

それもそうだろう、彼女はアイドルなんか目じゃない位の美女だった。

しかも、普通の人の耳よりとがっていた。恐らくエルフなのではないだろうか?



「さあ時間だ。この度は本当にすまなかった。突然の召喚に混乱せず、諸君らが冷静だったことは救いだ。重ねて礼をいう……ではさらばだ」




俺らの感情の感情なんかお構いなしに、また俺らは光に包まれたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る