第4話
窓から聞こえる小学生の声。
決して不快ではないけど、私を憂鬱な気分にさせてしまうからちょっと苦手だ。
「まきちゃん!たあかうたおかうわおかいなおあおだおあうだあたうたあ?」
「え!?あっ…!…はあがうさいたあ」
「え!?本当!?まきちゃん、おめでとう!」
「なに?今の?なんて言ったの?」
「みかちゃん、これ暗号だよ。」
「え!?私も知りたい!教えて!教えて!」
暗号…懐かしいなぁ。
「だ、ダメだよ!昨日もなっちゃんに教えちゃったもん!」
「えぇ〜!ズルいよ!教えて!教えて!」
「う〜ん…分かった!これでもう最後にする!うん!」
多分だけど、暗号にするほどの会話は2人だけの空間でした方がいいと思うな。私は。
暗号か…私も作ったな。いや、私たちで…か。
私には親友がいた。それこそ幼稚園から高校まで、苦楽を共にした戦友とも呼べる仲間だ。
正しく、前に話した亡くなった大事な友達とはその人のことだ。
あの頃、私たちは本当に何にでもなれると思ってた。
けど今になって分かる。それは本当だった。
何にでもなれる。それこそ私はプリキュアにもヒーローにもなれたと思う。けど1つ勘違いしていたとすれば、私のなりたいものになれるというわけじゃないってこと。
サッチ、私はなっちゃったよ。
あの頃、私がなりたくないって思ってたものにね。
サッチ、あんたはなれた?
あの頃、あなたがなりたいって思ってたものに。
私の人生は綺麗とは言えないけど
でも幸せな時間がなかったという訳でもない。
ちゃんと幸せな時間があって、その上に不幸が積み重なってそして出来上がったのが今だ。
だからこそ、私の不幸を幸せだった時間が、私の過去が、色濃く鮮明に染めていく。
具体的な過去を消し去りたい。
そうすればきっと笑顔でご近所さんにも挨拶できてたはずなんだ。
そんなことを考えながら歩く横浜駅もまた私を憂鬱にさせる物の一つでしかなくて早く消し去りたい。
こんなに万物を否定して、一体何がしたいんだ、私は。
不意に視線を下に向けると、どこかのコンビニのレシートが水に濡れ、地面に張り付いていた
屋根があるのに、床が濡れているのは雨水を靴が持ってきてしまうから。
つまりは多くの人がここにはいて、
あの人も、この人も、きっと私よりかは美しい心を持っている。
やはり、人混みは苦手だ。
暗い固形物が喉に突っかかる。
それが言葉じゃなくて今日、朝に食べた食パンであることを祈るばかりだ。
駅を出た広場で彼を待つ。
今の時刻は…9時37分
待ち合わせの時間は10時だからどこか腰掛けて待っていよう…。
そう思い、周りを見渡すと見覚えのある背丈の人を見つけた。
まだ集合時間まで23分もある…早すぎる…
まさかと思い、顔を覗いた。
…やっぱり柳田くんだ…てっきり、時間ギリギリに来るとかそういう子だと思い込んでたから、すっかり感心してしまった。
「やあ、柳田くん。早いね。」
「え?あっ、松田さん。おはようございます。」
仕事着姿でしか見た事がないから、私服での彼は全く違う人のように感じる。
柳田くんも高校生なんだね…
大人しめの色で、失敗を恐れるような私のとは全く真逆だ。
「柳田くん、いつもとは違うね。私服だからかな。」
「えっと…それは良い意味で…?」
「?もちろんだよ。悪い意味だったら言わないよ。」
「良かった…久々に遊びに出るからあんまり自信なくて…いやぁ良かった良かった…」
「私となんだから無難で良かったのに…じゃ、ちょっと早いけど行こっか。」
「はい!」
さっきまで喉にあった固形物は、液体となって流れて行ったかのように感じた。
それは彼と話したからなのか、はたまた時間のせいなのか、それが分からなくてどこかもどかしい。
それなのになぜだろうか。こんなにも心地よい。
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