絶望の中での転機

 私の頭の中は空っぽだった。もちろん周りには気を配っている。目線をちゃんと向けている。でもそれでもこの絶望感は消えてくれそうになかった。

 あまりのなんとも言いがたいこの消失感を抱えたまま運転するわけにはいかない。

 少し休憩してなんとか心を落ち着かせる必要がある。


 私は近くのコンビニに立ち寄ると、フランクフルトを買って、それを食べながら煙草をふかした。


「頑張ったよな」

 

 そう、私は頑張った。何をかはわからないがその時はそんな言葉で自分自身を励まそうとしていた。


 頑張ったよな私。そうだよ、だって50kmだよ? バイパスの恐怖にも負けないであの怖い1号線を走り抜けて、静岡市内をびくびくしながら走って、そしてあそこまでたどり着いたんだから、超がんばった。私めちゃくちゃ頑張った。ありえないほど頑張った! 


 今思えば、何が? である。しかしその時の私は情緒が不安定だった。直近では感じたことのない程の絶望感を覚えていたのである。

 それはめったに私からは連絡をしない会社の同僚に『富士方面通行禁止』看板の写真(海を撮るついでに一枚撮っておいた)を送り付けるくらいには混乱していたのである。


 頑張ったと心の中で繰り返し、いや原付に乗って走行を再開してからは実際に口にしながらひたすらぶつぶつと頑張った頑張ったと繰り返していた私である。


 不審者再来である。


 しかし考えてみてほしい。ここからまた40km運転しなければならないのである。

 頑張ったと自分を誇示しなければ最初に恐れていた何の成果も得られないまま戻ってきた調査兵団状態になってしまうのである。


 私は心が落ち着かないまま近くにあったふと目に入ったネット喫茶に入るのであった。 なぜネット喫茶に入ったのかは今考えてもよくわからない。



 きっちり一時間後、私はネット喫茶を後にして原付を走らせていた。

 ネットサーフィンと好きな漫画を読むことで私のメンタルは何とか回復できていた。0から10くらいには回復していた。もちろん100点満点である。


 時刻は17時頃、仕事帰りの人も多いのか車も原付の同志も増えていた東海道。

 そんな若干渋滞気味の東海道を私は無心で走っていた。

 行きはあんなに心配していたすり抜けバイク野郎たちも帰りはばかだなあ、もっとゆっくりのんびり帰ろうぜと構える余裕すらあった。ただの思考放棄である。

 無心ながらもそんなくだらないことを考えていた私は、目の前を走る何台かの原付のけつを追いかける形で走行していた。


 ふと目の前の原付の一台がウインカーを出し、曲がる。

 私は何を思ったのかその原付についていくように同じ方向にウインカーを出し、同じ方向に曲がっていた。もちろんナビガン無視である。

 すぐに我に返った私はマップを確認する。しかしナビを確認しても戻れ、Uターンしろとしか示してこない。


 普通の道ならば私もすぐにUターンしただろう。しかしこの東海道厄介なのがバイパスのようになっていて一度降りると、なかなか元の道に戻ることができない仕様になっていたのである。

 私は仕方なくしばらくそれっぽい道を進み路肩に原付を停止する。


 あの時なぜ曲がってしまったのか。曲がらなければまっすぐ帰れていたのにもかかわらずなぜ目の前の原付おじさんについて行ってしまったのか。

 その行動理由はその時も、帰った後も、今こうして書いていても全く分からない理解のできない行動だった。


 何はともあれ再ルートを示してくれたナビに従って私は走行を再開させた。

 ルートは東海道を外れた行きとは全く違う道。ルートの先にぐねぐねとした山道があるのは若干不安ではあるが、それは私がナビに従わず意味もなく方向転換した私のミスだ。甘んじて受けよう。 


 しかしこのミスがこの旅の転機だった。ここで道を間違えなければ私はきっとテンション10のままどんよりと暗い気持ちで自宅についていたに違いない。


 先に行っておこう。帰ってきた私のテンションは150オーバーだ。もちろん100点満点だ。


 これは奇跡の帰路だといっても過言ではない。そんなに持ち上げて大丈夫かって?

 問題ない。冒頭にも言った通り、これは私があまりにも感動的すぎる体験をした話を語っているのだ。

 ぜひとも次話を楽しみにしていてほしい。

 ただし私の文章力のなさによってこの感動が伝わらないかもしれないと情けない保険は念の為かけておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る