第2回「笑顔」

 私の経営する会社には、美人どころを集めた秘書課が存在する。五名ほどで構成されているその課では大体一年と持たずにガラリと顔ぶれが変わってしまう。秘書課だけで見れば3年定着率はゼロと言っても良いだろう。本日もまた二ヶ月前に採用した新人が揃って退職代行サービスを使って姿を消した。机の上に並べられた2通の辞表を前に、頭を抱えながら深く息を吐き出した。


「そこはせめて退職届でしょうが………。」


 込み上げてくる怒りともつかない感情を抑え込むようにそう呟くと、幼なじみでもあり秘書課きっての古株である渚がホクホクした表情で声をかけてきた。


「なに、あの子たち辞めちゃったの?昨日の取っ組み合いサイッコーだったからまた見たかったのに。ざーんねん。」

「あなた、その趣味の悪い遊び止めてくれる?採用コストが馬鹿にならないの。」

「だってさぁ、顔の良い女が髪も化粧もグチャグチャにして真っ赤な顔に青筋浮かべて罵り合ってるの見るの大好きなんだもん。それ知っててアタシを採用したのはそっちじゃん?別に辞めてあげてもいーんだよ、この会社。」


 ニヤニヤと挑発してくる渚の瞳を睨みつけて、小さく「やだ。」と呟いた。

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