第3回「憧憬」
私の双子の姉はいわゆるナルシストだ。物心がついた時には鏡を覗き込んではニコニコ笑って過ごすような可愛らしい子だったが、中学に入り私が姉とお揃いだった髪をバッサリ切った時に初めてその大きすぎる自己愛が露見した。ショートヘアになった私を見た姉は、しばらく愕然とした様子でこちらを眺めていたが、その内みるみる顔を真っ赤に染め上げると私の両肩を力一杯握り締めながらこうのたまったのだ。
「どうして私の綺麗な髪を勝手に切ったの!」
なるほど彼女にとっての私は愛すべき家族の一人でも趣味嗜好の違う他者の一人でもなく、鏡がなくても見えるし触れ合える彼女自身だったということだ。
◇
「ついに理想の私を見つけたの!」
そう言った彼女は、寝起き姿そのままで先程まで見ていた夢がいかに素晴らしかったのかを語り出した。久しぶりに話しかけられたが、やはり彼女の自己愛は健在らしい。そうして彼女はこんこんと眠り続けついには目を覚まさなかった。馬鹿な人だ、夢に描いた憧れの自分に囚われて逃げることも出来ないなんて。
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