88.傲慢に踏み潰したい。
――そして、傲慢龍が目前に迫ってくる。
奴は僕よりも遥かにでかい。見上げるそれに、僕はしかし果敢にも剣を振りかぶっていた。
「オオッ! “
叫び、剣を振るう。傲慢龍はそれを片手で受け止めると、こちらに反撃を放ってきた。僕はすぐさま剣を手放し、身を横にひねる。そして見た、
奴の手には、光の剣が収まっている。僕の概念武器と同様の、実体を伴わない剣。
それが、
“この程度か?”
――二本。
僕の剣が手の中で薄らいでいくのを見ると、それを握りつぶし、自身の剣を出現させる。僕も概念武器を再び出現させると、お互いの剣が激突した。
「く、おぉっ」
吐息が漏れる。
あまりにも圧倒的な、力の差。人と大罪龍の性能はこれほどまでに違うのかと。けれども、そもそも受けた時点で死が決まっていた強欲龍戦よりはマシだと、自分を叱咤する。
それに、
「こちらも忘れてもらっては困るな! “
師匠もすぐに、攻撃を仕掛けてくる。傲慢龍は迫るそれを、もう片方の剣で受け止めた。
“ふん”
そして、僕らは同時に剣を弾かれる。僕は大きく吹き飛び、師匠はその場で槍を弾かれた。しかし、師匠は弾かれた勢いで、更に攻撃を仕掛けられる。
僕もこの距離でなら、取れる手段はいくらかあった。
「“
「“
師匠の一閃が、再び傲慢龍の剣と激突。そんな奴の視界を、僕の爆発が覆った。
“――小細工だな”
「小細工上等に決まってるだろ!」
叫び、そして僕は突っ込みながら、
「フィー!!」
叫ぶ。
「解ってる!」
“――!”
そこに、
「
フィーの熱線が解き放たれた。
“チッ――”
それは大罪龍の中では、最弱と言われる火力の熱線。だが、僕たちパーティの中では最も取り回しやすい高火力攻撃だ。
端的に言って、パーティ最優の技である。もちろん、傲慢龍とて無視はできない。
両の剣を交差させて構え、音を頼りにそれを振りかぶる。
直後、両者は激突していた。
「――おお! “
「もう一発! “
恐ろしいことに、フィーの熱線と傲慢龍の迎撃は互角だった。こちらの最大火力とも言える技を、あちらは特に何の技も使わず、ただ全力で剣を振るえば防げてしまうのだ。
事実、傲慢龍の身体に傷はない。
とはいえ、それでもこの激突の間は、攻撃を抑制できることもまた事実。
僕らの攻撃を、回避することなく、傲慢龍はまともに受けた。
“お前たち――”
それにつまらなそうに言葉を漏らすと、傲慢龍はフィーの熱線を切り払う。これはなんとも嫌な光景だ。こちらの攻撃は、二発目を入れる隙も用意してもらえなかった。
“ちょこまかと、見苦しいとは思わないのか?”
言葉にしながら、傲慢龍の視線はフィーへと向いていた。
――まずいな。
“それにお前も、この程度の力で大罪龍を名乗るのは、愚かしい行為であると自覚せよ”
僕たちは慌てて移動技でフィーのもとへと向かうが、
“
――直後、傲慢龍の移動技が、起動した。
傲慢龍は、僕らの数倍の、あまりにも速い速度でフィーに迫り、目の前に出現する。それを見て取ったフィーが、一歩下がりながら、
「っ、
攻撃を一つ放つが、即座にそれは傲慢龍の剣で弾かれる。そしてもう片方を奴は構えた。
――傲慢龍の移動技は、若干変則的な移動を見せる。その速度は凄まじく、百夜のそれとくらべて、どちらが早いかは甲乙がつけがたい。そのうえで、傲慢龍の移動距離に制限はない。どこまでも、最速で移動することができる。
ただし、その移動自体に攻撃判定はなく、移動は対象とした人物の目の前に出現したところで停止する。
故に、どこまでも追いかけるしつこさを有しつつ、直前の停止で、一瞬の隙ができる。ただし、その隙は一秒にも満たない時間で、攻撃に転じるにはあまりにも短い。
とはいえ、今回フィーは咄嗟に飛び退きつつ攻撃で片方の剣を使わせた。さらに襲いかかるもう片方の剣は、脅威でこそあるものの――
「フィーちゃん! やらせないの!」
リリスがそこに割って入る余地はある。
“ほう?”
「“
「あんま無茶しないでよ!」
叫びながら飛び退くフィー。この場において、彼女のダメージだけはどうあっても避けるべきものだ。たとえそれを守るのがリリスしかいないとしても、やるしかない。
“私を相手に、生命を大事にする余裕があるのか?”
そう問いかけながらも振るった一撃に、リリスが吹き飛ばされ、しかしその一瞬で僕たちが間に合う。リリスは――無事だ。流石に、技も使っていない通常攻撃ならば、リリスがバフを入れれば十分耐えられる。
僕のデバフも入っているが。
「そうしなきゃならないほど、ギリギリになるのが解ってるんだよ、畜生!」
叫びながら、剣を振るう。
僕と師匠。二人がかりで傲慢龍の二刀を抑えようとするも、根本的に力の差は絶望的に存在する。直接攻撃をぶつけ合って、概念技を使ってもこちらが弾かれるのだ。
これを通そうと思えば、リリスのバフが必要になる。
それを組み合わせてもなお、傲慢龍への攻撃は殆ど通らない。僕たちの連携は我ながら完璧であるという自負があるが、それでも入る一撃は数発に一度だ。
そして、上位技ですらない一撃では、傲慢龍の膨大なHPはほとんど削れない。
「――今度こそ! 嫉妬ノ根源!」
そして、再びフィーが熱線を見舞わせる。だが、これすらも傲慢龍は対応してくる。
“愚かだと、何度言えば分かる?”
奴は、自分を抑えるつもりだった僕たちの攻撃を敢えて受け、
“
フィーの熱線を、一切の拮抗すらなく切り裂いた。
嘘だろ――とは驚いていられない。受け止めれば二発は叩き込む算段だったのに、奴はその上をいった。そしてその勢いのまま、
“
奴は今度こそ、フィーに迫っていた。
「フィー!」
「ま、かせてなの!」
とはいえ、この流れは先程の焼き直し、リリスは十分間に合う範囲だ。もちろん――
“
――今度こそ、傲慢龍の一撃が、リリスへと突き刺さるのだが。
「リリス!」
叫びながらも、吹き飛んだリリスを受け止めて、その場から駆け出すフィー。リリスは――概念崩壊していた。痛々しげに顔を歪ませながらうめいて、危険な状態である。
とはいえ、すぐにフィーが懐から復活液を取り出すのだが。
“――そううまくは事は運ばぬか”
追撃――しようにも、僕たちは既に、
「“
「“
僕たちは、間に合っている。
――剣を構え、槍を構え、僕たちは傲慢龍と向かい合う。
「反撃を――」
“――させるとおもうか?”
加えようとしたところで、しかし、傲慢龍の翼が発光した。――熱線のチャージを終えたのだ。
“したければ、これを耐えてからにするといい。耐えられるものならばな”
そうして余波を撒き散らしながら、傲慢龍は暴れだした。
余波は追尾するレーザーであり、振り回される大翼だ。傲慢龍が攻撃に打って出れば、その発射元が変幻自在に変化する近距離攻撃手段にもなる。
そこに通常の攻撃、剣戟が挟まるのだ。僕たちからすれば溜まったものではない。僕たちは奴の動きから逃げ惑いながら、牽制めいて攻撃を叩き込みつつ、レーザーの群れをかいくぐる。
リリスはフィーの背に乗って、僕らは何とか攻撃をやり過ごした。
とはいえ――
“
――発射の直前。傲慢龍は僕へと迫っていた。周囲を覆うように余波のレーザー。僕は視線を巡らせて、その隙間を探す。
“逃がすと思うか?”
「……逃げるんじゃない!」
そして、剣を構えると、相手の一撃を、
「これも、反撃だよ! “
無敵時間で躱す。
更に、傲慢龍が次の剣を構える一瞬の隙に僕の剣は突き刺さり、
「“
――僕は、後方へと移動技で飛んだ。レーザーの隙間を、一瞬でかいくぐる。だが、そこで傲慢龍の熱線が準備を終えるのだ。
故に、
“この程度で詰みか?”
傲慢龍は、
“
致死の一撃を放った。
しかし、その直前。
「っだああああ!
フィーの一撃が、僕に突き刺さる。そのノックバックで大きく吹き飛ぶと、傲慢龍の一撃は、僕の身体を掠めるにとどまった。
――もちろん、掠めたところで概念崩壊は確実なのだが。
直後。吹き飛んだ僕が地面に叩きつけられるより前に、復活液が飛んできた。
「――助かります!」
僕が叫びながら概念状態に戻り、着地。見れば、師匠が傲慢龍へと切りかかっていた。
“なるほど――!”
そして、ここで師匠には大きな変化があった、
それは、
「あああっ! “
師匠は上位技を使用している。コンボを稼いだのだ。どこで? 決まっている。傲慢龍の放つ無数の余波に対してだ。
そして、師匠はそのまま傲慢龍の攻撃を無敵で透かしながら、続けざまに攻撃を見舞う。このまま最上位技に手を伸ばすのだ。
それは、
その直後に、自身が概念崩壊するとしても、だ。
移動技で距離を取り、遠距離攻撃で更にコンボを稼ぐ。追撃はさせない、僕が即座に割って入った。
「“
「
フィーもまた同様に、遠距離攻撃を傲慢龍に弾かせたところで、
「喰らえ――! “
“そんなもの――!”
一撃は、かくして突き刺さり、
しかし、
“
完全に無防備となった師匠に、その一撃は叩き込まれた。
「ぐ、ぅ――!」
吹き飛ばされる。
ああ、けれど。
言ったよな、傲慢龍。
反撃は、お前の熱線が終わってからだって。
まったくもってそのとおりだよ。
吹き飛ばされた師匠の背に、僕が投げた復活液が直撃する。その勢いで割れた小瓶から、漏れ出た復活液が師匠を概念へと呼び戻すと、師匠もまた着地した。
“つくづく、お前たちは愚かしい。しつこい、と言葉にしなければわからないか?”
「それは――」
「――追い詰められてからいうセリフじゃないな! 傲慢龍!」
僕たちは、再び傲慢龍へと迫る。
反撃開始だ。僕たちがこれまでの旅の中で積み上げてきたものは、経験や力だけではない。この復活液も、その一つ。
数にして三桁。これを全部使い切れるくらい、暴れてみせろよ、傲慢龍!
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