第13話 朝顔の君は下を向き、向日葵の君は太陽のように微笑んだ

「おーい、起きろエイにぃ」


式場から少し離れた草むらで伸びているエイズラを、金髪のポニーテールを揺らしながら現れたスーツ姿の少女が見下ろしていた。


「ん・・・?」


「なんでこんなところで伸びているのだエイにぃ。大丈夫か?」


顔だけ見ると、レズリ―にそっくりな赤目の少女は、首元を押さえて起き上がるエイズラを見下ろして首を傾げた。


「お嬢様は無事か?ライム」


「あぁ、無事だぞ。のんきにベットでさくらんぼを食してござった」


エイズラと対等に口をきいているが、少女ライムはレズリ―と同い年くらいの少女だった。


「そうか、それは後で監視カメラで確かめないとな」


「盗撮カメラの間違いだろう」


ライムが手を差し伸べるが、エイズラはライムの手をとることなく起き上がった。その際に、ライムは少し寂しそうな表情をしたが、エイズラはレズリ―のことで既に頭がいっぱいだった。


「あのテロ、ジゼル嬢のところの企てだろうな」


ライムは、腕を組んで神妙な顔で呟いた。


「あぁ、レズリ―お嬢様は「あんな趣味の悪いもの見る価値ないですわ」とおっしゃって招待状を破り捨ててしまわれようとしていたが」


「それはレズリ―お嬢様の声真似か?似すぎて気持ち悪いのだが」


ライムはべと舌を出した。


「まぁ、僕を襲ったマチルダとあの仮面の男はエヴァ―ルイス家の中で消されるだろうから、もうあのいけすかない奴らの顔を見なくて済むからラッキーだな」


「いられなくなるから閉じ込めて阻止しようとしたんだろ。レズリ―お嬢様がマチルダを欲しがってるから」


「さあな」


「どこまでもエイにぃは、レズリ―お嬢様に忠実だな」


そういったライムに、エイズラは空を見上げ両手を広げて答えた。


「たとえ世界中の人間を敵に回したとしても、僕だけはレズリ―お嬢様の味方だ。地球がまわっているとしても、レズリ―お嬢様が地球は回っていないといえば僕は地球の息の根を止めにいく」


キラキラした顔のエイズラに対し、ライムは冷めた表情をしていた。


「何をいってるのかわからんのだが」


「それが執事の務めだ」


今回、エイズラがレズリ―に扮したライムの元から離れていた時、マチルダとシスカの動向の監視以外は、エイズラは仕事してる風の顔で盗撮しているレズリ―のビデオや今現在の監視カメラを確認していた。

エヴァ―ウイス家のボディガードやら用心棒やら総動員して屋敷に配置していたが、エイズラにとっては全く信用できなかったのである。


だが、どうしてもパーティに行きたくないというレズリ―の為に、エイズラは監視カメラを完全配備していつでも帰還できるように準備もしてパーティに向かったのだった。


だが、あの事件から3日も経たないうちにレズリ―の屋敷は少しプチ騒動になる。


「なに!?アーサー様がジゼルお嬢様に資金援助を!?どういうことなんだそれは!?」


エイズラは、話を聞いたらしいライムに詰め寄った。


「わからん、アーサー様が旦那様に掛け合ったらしい・・・」


「どうなってるんだ」


「あの事件も、不審者のテロということになっている。だいぶ圧力がかかっていて報道も全然されていないらしいが」


「アルバウトの死は?爆発は?ジゼルお嬢さまの誘拐は!?」


「それも不審者の犯行ということに・・・」


「んなわけないだろ、どうかしてるぞ。しかもあの場にいた人間全員黙らせてるのか。本当にアーサー様は恐ろしいお方だよ」


「えぇ、本当に。しかもエルフの会の会長を襲った犯行ということを強く出しているようだ、新郎として出ていた男は意義を申し立ててから行方不明らしい。エルフの会は解散だな」


「あいつは行方不明なのか・・・それは面白いな」


エイズラは嘲笑にも似た笑顔でくすくす笑った。


レズリ―は、それらの報告を聞いて衝撃を受けた。


「アーサーいたんですわね、あそこに。フーン、資金援助?ジゼルと仲良くしようってわけ?」


全く動揺していないように装っているが、レズリ―の手はわなわなと震えていた。


「それはわかりませんが・・・」


「エルフの女と仲良くしようって?この誇り高きエヴァ―ルイス家の次期当主がですの?全くふざけた話ですわね。アルバウトが死んだ今、あのエルフはエヴァ―ルイス家にとって癌でしかありませんのに」


レズリ―は、イライラしながらふかふかのベットに寝転がった。


「で、今ジゼルは何をしてるんですの?あの事件から3日後の今、どこにいるんですの?」


「普通に屋敷で過ごしているそうです。テロに巻き込まれた可哀想な令嬢として」


「なんでよ!!!!」


***


あれから、エヴァ―ルイス家のお坊ちゃんのアーサー・エヴァ―ルイスさんに資金を援助していただいて、俺たちはまた屋敷に帰ってこれた。


が。が、である。


「シスカ、本当にあなたって使えない執事よね」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


可愛げどこいった?ジゼルは、相変わらず腕を組んで上から目線に毒舌でシスカを見下ろしている。

どうやら、あれだけ助ける感じだったのに、僕は助けにもこずに何をしていたんだって話になり、何も答えない俺にジゼルお嬢様はご立腹だった。

マチルダさんが、俺もマチルダと同様閉じ込められていたんだと思うようなフォローを入れてくれたんだけれど、


「じゃあそう言えばいいでしょう?何故聞いた時に何も言わないの?」


って感じで火に油を注いでしまった。

だが、お嬢様曰く会場で王子様に出会えたそうなのでそれ以上何も言われなかったが、俺への扱いは前と同様か、それ以下である。

まあ、でも俺がマスクだということがバレないだけいいか。


そう思って庭へ向かう途中、たったったと廊下を走る音がして振り返ると、マチルダさんが俺に突進してきていた。

俺が驚愕に目を見開く前に、両手を広げたマチルダさんが俺を抱きしめていた。


「ありがとう・・・シスカ殿」


体がプレス機でつぶされたようになるわけでもなく、今回の抱擁はうさぎを抱くように優しかった。


「マ、マチルダさん!?」


顔を上げたマチルダは、向日葵のような笑顔で微笑んだ。


「私は、シスカ殿がやってくれたこと、ちゃんとわかっているでありますからね」


その笑顔の安心感にシスカは心の底にあった重い荷を下ろしたような気になった。


「ありがとうございます、マチルダさん」


こうして俺がジゼルお嬢様の屋敷に来てから最初の事件はひとまず終結した。

だが、俺の屋敷での日常は続いていく。

これは、エルフで毒舌なジゼルと、ドジで底知れないパワーの持ち主であるマチルダと、2つの仮面を持つことになってしまったシスカの少し歪でおかしな絆の物語である。

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