第12話 童貞執事、恋愛フラグが立たない

「好き?好き・・・すき?」


ってえええええええええええええ!?シスカは衝撃で思わず大声で叫ぶところだった。


今まで女の子に告白どころか、好きだといってもらったこともなくそもそも恋愛なんてしている暇も時間もなかった俺は、雷に打たれたような衝撃が胸に走った。


だが、正確にはシスカモテていた、努力家で勤勉で顔も悪くないシスカだったが、顔を赤らめて放課後校舎裏に来てくださいという女子に、「え・・・バイトだから無理です」と答えるような男だったからだ。


好き?って俺を?ジゼルお嬢様が?シスカの心臓はバクバク早鐘を打ち始めた。

シスカは男の子だったが、恋愛経験と性知識のなさから女性と全く恋愛フラグが立たなかった。


夜に女性を部屋に入れてはいけないことはわかっていても、俺が何もしなければ大丈夫という思考へと落ち着く。


マチルダの胸が飾りなのかと言われていた時、「いや飾りなわけないじゃないですか!」と答えたのも、(女性のおっぱいは赤ちゃんにお乳をあげる為に必要ですよ!)という意味であり、罵倒に対して真面目に答えてしまっているのである。


「名前も知らないわたしのことを二度も助けてくれた、まるで王子様みたいに」


王子様と言われてシスカは背中が恥ずかしくてむずがゆくなった。あの毒舌ばかりで可愛げがなくて、氷のようなジゼルお嬢様が、ジャケットの隙間から赤く染まった顔を覗かせながら俺に愛の告白をしている!?

っていうか、ジゼルお嬢様ってこんなにかわいかったっけ?


「どうしたら、わたしのこと好きになってくれる?」


「ぐっ・・・」


上目遣いで困った顔で見られてもシスカは首をたてに振るわけにはいかなかった。自分はマスク、自分を偽っている仮面男であり、彼女の使用人のシスカだからだ。

困ったシスカだったが、ちょうど馬車が見えた。


「あの馬車に乗ってあなたは屋敷に帰るんだ」


「いやよ、まだあなたとお話ししていたいわ」


ジゼルはシスカのシャツを猫のような手で握って離さない。


「また必ず、貴方のピンチの時に助けにくるから」


そういうと、ジゼルの頬はぽっとバラ色に染まった。そして嬉しくて思わず緩む口元を手で隠したジゼルは顔を赤く染めたまま潤んだ瞳でこくりと頷いた。


「約束よ」


逃げるために遠くに停めて待っていてもらっていたのでいつもエヴァ―ルイス家でお世話になっている御者のおじいさんにシスカは頭を下げた。


「ジゼルお嬢様!?どうなさったんですか?」


おじいさんは、ジゼルのウェディングインナーにジャケットを被っただけの姿を見て目を大きく見開いた。


「説明は後でします、とにかく彼女をお願いします」


「誰ですじゃあなたは」


御者のおじいさんはシスカを見て目を眉をひそめた。自分は仮面を被り明らかに怪しい。シスカは、自分の姿を思い出してどきりとした。


「メ、メイドのマチルダさんに彼女を任された者です」


「マチルダさんにか?本当かね」


マチルダさんという言葉におじいさんは少し緊張がとけたらしいがまだ疑わしき表情でシスカを見つめている。


「私のことはいいです。もうすぐマチルダさんが来ると思うので、一緒に彼女を乗せて行ってください!」


シスカはそういうと、マチルダが来ていないか確認した。すると、遠くの方に黒い人影が凄い勢いでこちらに向かっているのが見えた。あの人間離れしたスピード、馬じゃないのだからマチルダさんだろう。


「はい、ジゼルさん。馬車に乗ってください」


シスカは、マチルダがこちらに向かってきていることを知って安心し、そのままジゼルを馬車に乗るように促した。

ジゼルは、大人しく馬車に乗りそして名残惜しそうにジャケットをシスカに差し出した。


「返すわ、もう大丈夫」


「ありがとう」


「また、会えるわよね。約束して」


こんなジゼルお嬢様の切実な表情を見せられたら、俺は首を縦に振るしかなかった。


「・・・うん、約束」


「お待たせしたでありますよ!!!」


マチルダさんは、全力疾走してきたのか息が上がっていた。剛速球のようにかけてきたマチルダさんの第一声は当然のことながら、


「ジゼルお嬢様!」


マチルダさんは、馬車に一直線に向かっていった。


「マチルダ!」


シスカが、馬車の中のジゼルを確認すると、ジゼルはマチルダにひしと抱き着いていた。


「マチルダ・・・マチルダ!」


「お嬢様・・・ご無事でよかったであります」


マチルダさんをいつも罵倒しているジゼルお嬢様だったが、この時は子供のようにマチルダさんに抱き着いていて、俺は安堵の笑みがこぼれた。


「マチルダさん、彼女をお願いします」


「了解であります」


敬礼したマチルダさんは、俺を見て意味深に微笑んだ。

これから2人を乗せて馬車は、雲隠れする為にとってあるホテルに向かう手筈になっている。俺もこの後変装をといて向かわなくてはならない。

ジゼルはずっと何度も何度も後ろを振り返り、名残惜しそうにシスカを見つめていた。

シスカは、馬車を見送った後ばたりと草むらに倒れた。


「よかった・・・・」


仮面をとったシスカは、青空に仮面をかざした。E.Kというイニシャルがこれからシスカに起こる様々な困難と出会いを告げていた。

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