第11話 救出したお嬢様の目に映る俺は王子様だった
どうして停電したんだ?でも好都合だ!シスカも同様姿勢を低くし、前に手をかざしながら前に走っていた。
「何?どういうこと?」
ジゼルは当然混乱してしゃがみこんだ。でも、あの時確かに現れたのはパーティで助けに来てくれたあの仮面の男だった。
「もしかして・・・」
助けにきてくれたの?もしかして彼はマチルダかシスカの知り合いで、事情を話して彼を呼んでくれたのかしら。
そう思ったジゼルは、動きづらいドレスを脱いで白いブライダルインナーのまま姿勢を低くして走り出した。
「お、おいっ待てどこへ行く」
「きゃあっ」
暗闇の中、ジゼルの上に突然結婚相手の男がのしかかった。頭を床に押し付けられ、もう片方の手で腕を掴まれてジゼルは身動きが取れなくなる。
「衣擦れの音がすると思ったら、逃げる気か。この停電も、あの奇妙な男もお前が差し向けたのか?エルフの女のくせに人間に逆らってこんな企てをするなんて」
のしかかられて体を触られ、ジゼルは目に涙がにじんだ。
「助けて・・・」
目が慣れてきた。あそこだ!シスカは、男の下敷きになっているジゼルを発見する。
頭にかあっと血が上ったシスカは、
「汚い手でおじょ!!・・・俺のしゅ・・・人に触るな!!!!!」
そのまま助走をつけた勢いでジゼルに馬乗りになっている男をぶんなぐった!
「ぐあっ!!!!」
「行こう」
入口が開いて、光りが入ってきた。入口へと人々が向かおうとする混乱に乗じてシスカは姿勢を低くして人込みに紛れた。
ジゼルの髪は目立つので、シスカは自分のスーツのジャケットをかぶせて庭の方へと逃げようと人の波から飛び出したが、
「なっ!?」
シスカの襟首をぐいっと引っ張られ、シスカは首がしまった。ジゼルを守るように抱きしめ振り返ると、そこには鋭い瞳をしたエイズラが鬼のような形相でシスカの襟首を掴んでいた。
「貴様・・・こんなことをしてただで済むと思わないことだな」
「それはこっちのセリフであります」
頼もしい声と共にエイズラの背後に現れたのは、ボロボロになったマチルダだった。
マチルダは、エイズラの首に腕をまわすと絞め落とす勢いで力を入れた。
「ぐあっ・・・く・・・そっ・・・ばけものが・・・」
「邪魔者は排除したであります。必ず追いつくでありますから、先にいってほしいであります」
マチルダは、泡をふいて倒れたエイズラを抱えながらシスカにそういった。シスカは、頷いてそのままジゼルを連れて逃げるときに使う馬車へと向かった。
マチルダは、そんな2人の後ろ姿を見つめながら息を吐いた。
「あぁ、これでやっと」
マチルダは、ターゲットのところへ向かった。スカートの下の暗器も、肩掛けカバンに入っている武器も準備万端だ。式場から逃げた中にあの男はいなかった。
暗闇に順応するようにすっと目が慣れたマチルダは、眼鏡をはずし蛇のような瞳で周りを見渡した。
マチルダが式場の中に入ると、机の下にうずくまっている男がいた。
「テロだ・・・テロが起きたんだ・・・」
マチルダは、その男の頭に太ももにいつもつけている銃ホルダーから銃を取り出し6発弾を撃ち込んだ。
「テロじゃない、今までの復讐だ。クズが」
マチルダは、レズリ―を人質にお金をふんだくりその金でジゼルとシスカを海外へと逃がそうと思っていたが、レズリ―は既に他の人間に連れられて逃げたらしい。小賢しい小娘め。さっき落としたエイズラに、レズリ―はいくらの身代金を支払うだろうか。
「もし打つ手がなければ私がレズリ―お嬢様のメイドになるという手も・・・」
式場の外から洩れる光に、人影が落ちた。
マチルダは素早く振り返り銃口を向けたが、そこに立っていたのは金髪に赤い瞳の、人形のように無表情な少年だった。
腕を後ろに組んで、じっとマチルダを見つめている。
マチルダは、眼鏡をつけて微笑んだ。
「子供は早く逃げるでありますよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
だが、その少年は首を振った。
「僕がジゼルに資金援助をする」
短くいった少年は、眉をひそめるマチルダに胸ポケットからバッジを取り出した。
それは、間違いなくエヴァ―ルイス家の家紋だった。
「僕はアーサー・エヴァ―ルイス。正家エヴァ―ルイス家の次期当主にして、庭でのびてた執事の仕えているレズリ―・エヴァ―ルイスの弟。今日は実に面白いものを見せてもらった」
アーサーは、無表情のままそう言った。
「資金は援助する。その代わり、あの男にまた会いたい。
アーサーは、くるりとマチルダに背を向けた。
「今度会いに行く。それじゃ」
「あっ・・・待っ」
そういってアーサーは走って式場の外に出て行ってしまった。
確かに次期当主はエヴァ―ルイス家以来の神童と呼ばれているのを聞いたが、まだあんな子供だったなんて。マチルダは、少年の言葉に半信半疑だったがもしそれが嘘ならマチルダがお金を稼いで2人にお金をいれればいいだけの話だ。
「逮捕されなければ、の話でありますけどね」
式場の外に出てのびているエイズラを見たマチルダは2人の逃走を祝福するかのように晴れ渡った青空を見上げた。
一方シスカは、ジゼルをお姫様抱っこして馬車の元へと運んでいるところだった。ジゼルは昔から走ることがなかったので、すぐ疲れてしまったのである。ベールがとれてしまっているので急がなくてはならない。ジゼルはシスカがジゼルの頭に被せたスーツのジャケットをきゅっと頭にかぶせて大人しく抱っこされていた。
「わたしは、ジゼル。ジゼル・エヴァ―ルイス。ねえ、貴方お名前は?」
「僕で・・・僕かい?僕はマスクさ」
シスカは最初に会った時のような爽やかボイスを喉に呼び戻し答えた。
「マスク、マスク様・・・」
ジゼルは名前の呼び心地を確かめるように何度も反復した後、頬を染めた顔を恥ずかしそうにジャケットの中に隠した。
「マスク様、わたしあなたのこと、好きになってしまったみたい」
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