第10話 閉じ込めたメイド(獣)の解放
一方シスカはというと地面に膝をついて絶望に顔を歪めていた。
「地図の控室の位置・・・逆だったよ。マチルダさん。」
ここでドジ!?だが自分も確認するべきだった、本当にこれは最近ドジが少なくなってきたマチルダさんを甘く見すぎていた自分が悪いのだ。
シスカは確かに控室という場所の前に立っていた。だが、いつまでたってもマチルダからノックの合図がないし、ジゼルお嬢様が部屋から出てくることはない。だが勝手に扉を開けて確認するのはダメだってことはシスカだってわかっている。
おかしいと思って黒服に確認したところ、この控室は控室A。つまり新郎側の控室だというじゃないか、シスカはこの時点でもう頭が混乱して手汗が酷かった。
ジゼルのいる控室は控室B、こことは全く反対側となっている。急いでいけば間に合うと思ったが、新郎はもう着替えを済ませて式場の方へ向かったらしい。ジゼルの元へと向かったシスカだったが、もう花嫁は式場に向かったと聞かされ、シスカはこうして膝をついているのである。
「マチルダさんは入れ替わったのか?だとしたらジゼルお嬢さまはどこにいる?」
シスカははっとしてすぐさま立ち上がった。
膝をついている時間なんて1秒だってないんだ、切り替えろシスカ!俺は、早歩きで式場まで向かった。
式場へと続く扉を開けると、会場は真っ暗で静かだった。
「それでは、新郎新婦の入場です」
も、もう始まっているだと!?だが好都合だ、今マチルダさんは花嫁の姿で周りにジゼルお嬢様だと思わせているはず。今のうちに入れ替わったお嬢様を・・・と思ったシスカだが、でてきた花嫁を見て目を大きく見開いた。
「ジゼルお嬢様・・・?」
無表情で式場の中心にいるのは、間違えるはずもない、ジゼルお嬢様本人だった。
純白のウェディングドレに身を包み、白いレースのベールを身に着けている。
どうして?マチルダさんはどうしたんだ?
新郎は、シスカの父親かそれ以上に年の離れた小太りの男。ソイツにも見覚えがあった。シスカが仮面を初めてつけたあの時、シスカの父親と同じか、またそれ以上かという年のトイレから出てきた小太りで偉そうなおじさんだった!仮面をつけていなくてもシスカはすぐにあの時と同じ嫌な感じがしてわかった。
シスカは混乱で頭がいっぱいだったが、急いで暗闇に乗じて外にでた。
マチルダさんは、隠しておいた肩掛けカバンからウェディングドレスを持って雨どいを使って2階から侵入し、1階の控室に向かう手筈だったじゃないか。
シスカが草むらのある庭に行くと、誰もいなかった。2階の窓が開いているので、恐らくマチルダさんは侵入には成功したんだろう、でも、それから何かトラブルがあったんだ。控室に来なかったということは、控え室を間違えたってことはないはず。そこに行くまでに何かあったのか?
クソっ、シスカが肩掛けカバンを開けると、そこにはここにあるはずのないものが入っていた。
「これは・・・?」
パーティの時に使った、金髪のカツラとあの仮面がこちらを見上げている。
「なんでこれがここに?」
ゆっくり仮面を持ち上げると、あの時は気づかなかったが、仮面の裏には小さくE.Kとイニシャルが彫ってあった。引き出しにいれておいて忘れていたんだ。
この仮面をかぶっていたから俺は、あの時ジゼルお嬢様を助けることができた。だが、今の俺は・・・どうしたらいいんだ、もう式場からこっそりお嬢様を連れ出すなんてことできない。このままだとお嬢様が・・・。
泣きそうになっているシスカの背後に人の気配がして急いで振り返ると、金髪に赤い瞳をした少年が立っていた。髪をオールバックにしていて、身なりもよく、非常にきれいな顔立ちをしている少年だった。だが、ごっそりと感情が抜け落ちてしまったかのように無表情だった。見た目に反し、まるで人形かのように無表情な少年は手を後ろで組んでシスカをじっと見つめているだけだ。
この会場の誰かの子供なのかもしれないと、シスカは思った。
「あ・・・あの、君は?」
急いでサングラスをかけて話しかけるが、
「・・・・・・・・」
少年は答えなかった。シスカは、この少年は自分にしか見えていないんじゃないかとさえ感じた。だが、少年は確かにそこにいて、圧倒的な存在感と高貴なオーラを纏っている。
「君はどうして外にいるんだい?」
そう聞くと、少年は小さい口を開いた。
「見る価値がないから」
無表情で、確かに少年はそう言った。シスカはそれを聞いて何かがパリンと弾けた。
見る価値はない?結婚式なのに、こんな子供にそこまで言われている。
何が結婚式だ、こんなのおかしいだろ・・・ふざけんな。そもそもこの結婚式自体全部、おかしかったんだ。
「・・・そうだな、そんなのおかしいよな、結婚って言うのはもっと夢があって、幸せなものだ。子供にそんな風に言わせてはいけない大事な行事のはずだ。それがどうだ、今日の結婚式は大人同士が勝手に決めて、お嬢様を道具みたいに、絶対に許せない」
俺はあの夜、プライドが高いお嬢様が俺に涙を見せた日のことを脳裏に浮かべた。燃え盛るような怒りがわいてきて、シスカは、金髪のカツラを被り仮面を手に持って立ち上がった。
「変えなくちゃ、こんな運命を」
少年は、シスカの表情を見て少し目を見開いた。
「ありがとう、俺ちょっと行ってくるよ」
そういって走るシスカの背中を、少年は首を傾げて見送っていた。
シスカは、他の黒服の静止を振り切り全速力で会場へ向かった。
「ちょっと待ったぁーーーーーーーーーーー!!!!」
シスカがバンと扉を勢いよく開けて式場に入っていった。
あっけにとられる周りの人々に、シスカはお構いなしでレッドカーペットを土足で走っていった。
「不審者だ!捕まえろ!!」
誰かわからない怒号と共に、何人かの男がシスカの元へと飛び出してきた。
「な、あの仮面の男・・・」
動揺するレズリーの隣からエイズラも飛び出した。
エイズラは物凄いスピードでシスカへと突進していく。銃を撃つと周りが混乱する、できるだけ最小限で仕留める。
「動くな、仮面の男!!」
そう叫んだエイズラの声が合図のように、一階からとてつもない爆発音がした。
式場がぐらりと揺れ、あらゆる電気がぱっと消えた。
「爆発音?どういうことだ?」
悲鳴、混乱、狂騒が式場を埋め尽くし、はっとしたエイズラは急いでレズリ―の元へと戻った。
「エイズラ?エイズラ?どこですの?」
「ここですよ、お嬢様。エイズラは隣におります」
エイズラは、レズリ―のすぐそばでレズリ―の背中に手を添えて姿勢を低くした。
「なにが起きたんですの?」
エイズラはわかっていた、閉じ込めていたマチルダの怒りが爆発したんだろう。
「ふーーーーっ小型爆弾、カバンに入れておいてよかったであります。ごほっ・・・ちょっと爆発に巻き込まれたぐらいで済んだでありますよ。最初からこうしておけばよかったでありますな」
マチルダは、物置の扉を叩いたが腕中あざだらけになるくらい固くてダメだったのと、ガラスは防音ガラスだったのを見て隣の壁を爆破することにした。隣の部屋には、各部屋の電気に繋がっている部屋があり、それごと爆発したので電気が一斉に消えたのだった。
マチルダは、乱れた前髪を人指し指でちょいと直した。そして、手の関節をぽきぽきと鳴らしながら、肩掛けカバンを肩にかけなおす。
「見かけた黒服全員絞めていけば私を閉じ込めた黒服にたどり着きそうではありますが、生憎今はその時ではないであります」
マチルダは、ぴょんぴょんと準備体操のようにジャンプすると、ベランダに飛びついた時助走をつけたように姿勢を低くし、虎のように式場の方へ走り出した!!
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