第7話 夜に執事の部屋に来る令嬢の思惑はいかに~こんな形で誘われるなんて聞いてない~

マチルダとシスカは、残り1日になるまで共に深夜集まり策を講じた。


「私が僭越ながらジゼルお嬢様の代わりに影武者で式に出ておくでありますから、シスカ殿はそのうちにジゼルお嬢様を連れて逃げてほしいであります」


「それは身長とかで流石にバレるんじゃないですか?」


「大丈夫でありますよ!私用のウェディングドレスをもう既に購入してあるのであります。式場でウェディングドレスを着ている人間はベールで顔を隠していてもドレスが違っても花嫁だと思うでありますよね?」


「で、でも、そんなの隠し通せるわけないじゃないですか!バレたらマチルダさんが」


「大丈夫でありますよ!必ず上手くやるであります。適当に合わせたらドレスを脱いで追いかけるでありますから」


「駄目です、そんな危険なの」


「外に車を用意しておくでありますから、大丈夫でありますよ」


「大丈夫なわけないじゃないですか!マチルダさん、自分で気づいてないかもしれませんけど、世紀末的にドジですからね!?今日だって窓を拭いていて何故か窓から落ちそうになってましたよね!?そんなマチルダさんを一人置いてなんて」


「今回ばかりは失敗しないであります。ウェディングドレスを買って準備しておいたくらいでありますよ?それなりにずっと準備してきたであります。でも、ジゼルお嬢様を逃がす役がずっといなかったんでありますよ。だから、シスカ殿に協力を頼んだんでありますよ」


マチルダは、シスカの肩をぐっと掴んだ。


「お願いでありますよ、シスカ殿。私を信じてほしいであります」


そんなことを真っすぐな目で言われたら・・・シスカは肩と肩から上が離れ離れになるんじゃないかという激痛に耐えながらしぶしぶ、本当にしぶしぶ頷いた。


結婚式の前日、ジゼルに来客が来ていた。

ジゼルの父、アルバウトである。シスカはというとマチルダが何か始めるまでに仕事を終わらせておかなくてはならない為屋敷内を走りまわっていた。


ちょうど洗濯機をまわし終えたシスカは、廊下で扉に耳をぴったりつけ険しい顔をしているマチルダを発見する。


「マチルダさん」


「ひっ・・・しーっ」


マチルダは、指を唇につけてシスカを見つめた。

先ほどジゼルとアルバウトの入っていった扉の前で、マチルダは話しを盗み聞きしているようだった。


「盗み聞きしているんですか?」


そういうと、マチルダは唇を固く結んで俯いた。


「シスカ殿も一緒に聞いてほしいであります」


「えぇ?」


マチルダはシスカの腕を掴んで自分と同様しゃがませた。

シスカはあまり気乗りしなかったが、仕方ないので中の話を聞くことにした。


「ジゼル、3日後の結婚式は盛大にやろう。明日は大丈夫、先方はエルフコレクターの中でもかなり上玉でな。結婚した暁には、多額のお金をエルフの会に投資してくれるようだ」


「はい・・・お父様」


「処女のエルフというのは貴重でな、ジゼルに変な虫が今まで付かなかったのは本当によかったよかった、ドレスも会場も準備してある。お前は今まで私が作ってきたエルフの中でも上質だ、お前の母親は、買ったエルフの中でもかなり上玉だったんだろうなぁ」


聞いているだけで吐き気がしてくるような会話だった。


「エルフコレクターって・・・なんですか?」


マチルダに問いかけたシスカに、マチルダは俯きながら淡々と答えた。


「アルバウトの作ったエルフの女性を集めて鑑賞したり、見世物にしたり、オークションで売ったりするエルフの会という団体の仲間だと思うであります。エルフという種族はある層には人気みたいでありますから」


「何だよそれ・・・じゃあ、お嬢様は」


「ええ、そのエルフの会の趣味の悪いおっさんの供物になるんでありますよ」


シスカは、あまりに淡々と語るマチルダの表情を見た。だが、マチルダの唇は噛み締めすぎて血が流れていた。

アルバウトが帰ると、ジゼルは食事もとらず部屋に戻っていった。


「私も今日は先に部屋に戻るでありますよ」


マチルダは、解散といわんばかりにあっさりと部屋に戻っていった。心配性のシスカとしては一緒に最終確認をしたかったのだが、マチルダの雰囲気がそっとしておいてほしいという感じだったのでそっとしておくことにした。

そりゃそうだよな。マチルダさんは、お嬢様のこと大好きだからあんな風に父親に言われているジゼルお嬢様を見たら・・・ショックだよな。

シスカは、とぼとぼと自分の部屋に戻った。


ベットにごろんと横になったシスカは、頭の上で腕を組みながら考えていた。

結婚式中にジゼルを連れだしても父親の呪縛からは逃れないような気がする。お嬢様とエヴァ―ルイス家との縁を断ち切り、のどかな田舎とかに移り住む方法はないだろうか。俺がまた頑張って働いて2人を養っていくから。


シスカは、そんなことを考えているうちにうとうとしてきて目を閉じた。

だが、こんこんとノックオンがして目を見開いた。


「こんな時間に誰だ?」


マチルダさん?結婚式をめちゃくちゃにする計画をたてにきた?シスカは、ベットから降りてたったったと扉の前に歩いてきた。


「はーい」


扉を開けると、パーティの時と同じ仮面をつけたジゼルが立っていた。

いつもの黒いベールに黒いネグリジェを着て立っていた。マチルダかと思って開けたら仮面をつけている人物だった時の衝撃。


「うっ・・・」


思わず大声を出しそうになったシスカをジゼルは口を押えて止めた。


「なんっ・・・え?」


「部屋に入れて」


ジゼルは、凛とした声でそう言った。

2日連続で女性を自分の部屋に入れることになったシスカだったが、シスカにはそういう気を起こすという発想さえなかった。ジゼルに流されるようにジゼルを部屋に招き入れる。


「な、なんですかお嬢様、こんな時間に。その仮面は何ですか?」


「・・・・・・・」


ジゼルは答えなかった。その仮面はパーティでジゼルがつけていたものではないか!シスカは仮面男が自分であるのを問い詰められるんじゃないかという恐怖にかられたが、ここで動揺すると余計に怪しいので冷静な風を装った。


「僕は何もしませんけど、こんな時間に男の部屋に来るというのは一般的によくないことなんですからね、用件だけ聞いたらお部屋に戻ってもらいますよ」


そういうと、ジゼルはシスカのベットまで歩いていき座った。


「じゃあ、ここ、座りなさい」


相変わらずシスカに対しては偉そうかつ、気高い態度で接してくる。

自分の隣をぽんぽんするジゼルに、シスカは何を言われるのかびくびくしながら言われた通りに隣に座った。


「はい」


「なんですか、お嬢様」


「わたしを犯してちょうだい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る