第6話 事情は分かるがだからといって納得できるとはまた別問題なこともある

シスカにとってはだから何だという話だが、ジゼルが令嬢となってくると話が違ってくる。本来エルフというのはこの世界では人間より下、娼婦や奴隷にされ、差別される種族だったからだ。このことを知っていたからいじめられていたのか?でも、レズリーはその辺のことはいっていなかったからもしかしてこの事実を知ってるのって・・・。


「忘れて・・・誰にも言わないで」


ジゼルは我も忘れてシスカに懇願していた。あのジゼルお嬢様が泣きながらシスカに抱き着いてくることがあろうとは、シスカは言いふらす気など毛頭なかったが、衝撃と驚きで一瞬体が固まった。


「わかった、わかったから落ち着いて」


シスカがジゼルを自分から離すと、ジゼルは俯いて濡れたドレスを握りしめていた。


「ごめんなさい・・・」


そういったジゼルはすくっと立ち上がるともう一度、ごめんなさい・・・といって走っていってしまった。令嬢たちに見つかると焦ったが、たまたま玄関には迎えの車が来ていたらしく、ジゼルは送迎の車に乗っていった。

どうしてこんなにタイミングよく車が・・・シスカは一人になり安心して仮面を外した。


「シスカ殿」


「ぎゃっ・・・」


大声をあげようとしたシスカの口を、いきなり背後に現れたマチルダがお得意の怪力で窒息させる勢いでふさいだ。


「!?!?!?????」


混乱するシスカに、マチルダは言った。


「お疲れ様でありました、シスカ殿。カバン回収も完璧であります。帰りましょう」


シスカは咄嗟に背中に仮面を隠してしまった。


「さあさあさあ!帰還するでありますよ!」


マチルダは、シスカの腕を引っ張って荷車に引っ張り込んだ。


「ちょっと待ってマチルダさん!」


「お嬢様が帰ってきてしまうでありますから、急がないとだめであります。あっ、カツラでありますか?」


マチルダはシスカの金髪のカツラを持ち上げすぱっとカバンの中に放り込んだ。シスカは仮面を背中に隠したまま、待ってを聞かないマチルダに無理やり荷車に乗せられまた乱暴な運転で屋敷へと連れ戻された。


「マチルダさん、どういうことですか?俺をパーティに連れて行ったのは何か意味があったんですよね」


今日シスカをパーティに連れて行ったことについてマチルダさんは確実に何か考えがあると思ったシスカは、ぼろぼろの姿を直して部屋に戻ったジゼルを見送った後、そのままどこか行こうとするマチルダを呼び止めた。


「はい」


マチルダは、真剣な表情で頷いた。


「立ち話もなんでありますから、シスカ殿の部屋でいいでありますか?」


自分の部屋を提案するようにシスカの部屋を提案してきたマチルダだったが、シスカはこくりと頷いた。女性の部屋に夜男を呼ぶのはだめだよな・・・ん、待てよ。夜男の部屋に行くのはいいのか?


「わかりました」


とりあえずOKした。


ズボンと背中の間に隠してきてしまった仮面のことはまた考えよう、シスカは使っていない部屋の引き出しの中に仮面を隠した。

部屋にマチルダを入れたシスカは、マチルダにソファに座ってもらい話を聞くことに。


「パーティにいったってことは大体のお嬢様の事情は理解できたんじゃないかと思うであります」


それは、そういうことなのだろう。シスカは、俯いた。


「はい、大体理解はできましたが納得はできませんでした」


そういうと、マチルダは手を膝の上でぎゅっと握った。


「そして、お嬢様のベールの秘密も、見たんでありますよね?」


マチルダは、やはりシスカとジゼルのことを見ていた。会場内に入った方法は不明だが、ジゼルの為に迎えの車を呼んだのはマチルダだろう。


「はい、言わないでと言われました。何度も・・・何度も」


「お嬢様を見てどう思ったでありますか?」


「お嬢様は・・・」


シスカはここで言葉に詰まった。


「いつもと違って、小さく見えました」


そういうと、マチルダはシスカにぐいっと顔を寄せた。


「わっ、なんですかいきなり!」


シスカは、驚いて身を引いた。


「お嬢様、4日後旦那様の決めた相手と無理やり結婚させられるのであります」


「よっ・・・!?」


そして、マチルダはシスカの両手をとり、ぎゅっと握った。

ぎゅっと、というか、みしっとだった。


「シスカ殿には、お嬢様を、救ってほしいであります。私もできる限りお手伝いはするでありますから!」


「がっ・・・ぐ・・・ぎぎっ・・・」


多分これ、あれだ、そのあれ、あれだ、痛みで何も考えられない。

シスカは両手に走る激痛に耐えながら涙目で何度も頷いた。なんて力だ。このソファ一人で持ち上げられそう、なんてシスカは女性に対して失礼極まりないことを考えていたが、恐らく事実なので仕方ない。


「本当でありますか!?嬉しいであります!!シスカ殿」


「救うっていったって具体的には・・・どうしたらいいんですか」


「計画としては、結婚式をめちゃくちゃにするのがいいかと思うであります。お嬢様は、旦那様に怯えているから自分からは嫌と言えないのであります」


「めちゃくちゃにって・・・」


「お嬢様には好きな人と普通に結婚して幸せになってほしいでありますよ。旦那様の言う相手と無理やり結婚なんてさせられたら、もう私も使用人としてお仕えできなくなってしまうかもしれないであります!お願いします、シスカ殿。お嬢様を救ってほしいであります」


マチルダは、お嬢様にいじめられているのにこんなにお嬢様のことを思っている。涙を目にいっぱいためて、来たばかりのシスカに助けを求めている。


「当然ですよ、お嬢様の使用人は俺とマチルダさんの2人です。俺が協力しなくてどうするんですか。あんなお嬢様・・・らしくありませんから」


シスカは、握られて開かなくなった拳をマチルダに見せた。

マチルダは、感動に顔を輝かせた。


「ありがとうであります!ありがとうであります!」


マチルダは、感謝しソファから降りて扉に向かった。


「その言葉が聞けてよかったでありますよ」


マチルダは扉の前で立ち止まり振り返った。


「決して私だけでは、お嬢様を救うことはできませんから」


マチルダさんは、寂しそうに引きつった笑顔を浮かべた。

シスカは、マチルダのその言葉に違和感を覚えた。


「それはどういう・・・」


「おやすみなさいであります、シスカ殿」


だが、マチルダはシスカの話を聞く様子もなく出て行ってしまった。

廊下で一人になったマチルダは、拳を握りしめた。


「誘拐、拷問、暗殺、絞殺、撲殺、殴殺、刺殺、自殺に見せかけての・・・いざとなれば」


背筋が凍りつくような冷たい声でそういって、マチルダは眼鏡を外し鋭い眼光で窓の外の月を睨みつけた。

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