第4話 人は見かけで判断してはいけないというがここまで酷いとは聞いていない

シスカは、またトイレに戻ってきていた。逃げ帰ってきたというのが正しいだろう。


このパーティでジゼルはどんな立場なんだ?何であんなことを言われてるんだ?シスカはクエスチョンマークで頭がいっぱいだった。


洗面台の上で拳を握りしめながら自分のあの時の行動を恥じた。

いくら酷いことをされているといえど、あそこではジゼルお嬢様を庇うのが俺の本来の役目だったはずなのに。


ガチャと扉が開いて、シスカはびくりと体を震わせる。


トイレからは、深緑色のスーツを着たプライドの高そうな小太りの男が金の羽をつけた派手な仮面をつけてでてきた。やはりこういうところに来ている人間というのは仮面をしていても、顔が見えるというか、金持ちが透けて見えるというか。


男はじろっとシスカを見ると鼻を鳴らして出て行った。

感じ悪い。金持ちっていうのは性格の悪いヤツしかいないのか。

でも、あれ俺あの男に何も言われなかったぞ?


シスカはそこでふと鏡を見た。

焦ってつけた落とし物の仮面。孔雀青色に金色の装飾が施された美しい仮面だった。

顔の上半分しか隠せない仮面だが、それをつけたシスカは鏡の前でほうとため息をついた。


「おぉ・・・」


金髪の髪も相まって上等な仮面で王子のような風貌になったシスカは大きく目を見開いた。

ジゼルに会場に来ていることをバレたくない、かつ元の恰好だと顔でバレる上に会場の黒服にしか見えないのがこの仮面をつけることですべて看破されてしまった。


「少しだけ借りよう」


シスカは少しの間だけ、この仮面を借りることにした。

ジゼルの様子だけ見てすぐに落とし物として届けるつもりだった。


会場の前の扉は開かれていて、パーティ会場は沢山の仮面をつけた金持ちたちと豪勢な料理であふれていた。

シスカは、扉の前で立ち尽くしていた。これが人生の勝ち組たちか・・・。


「どいてくださるかしら?」


「はいっ!?」


ピンク色のドレスに身を包んだ金髪で縦ロールのいかにも令嬢らしい風貌の女の子が立っていた。こんな子供も仮面をつけてここに来るのか・・・シスカが一歩下がると、少女はじっとシスカを見つめた。


「な、なんでしょう?」

咄嗟に声を明るい爽やかボイスにして振り返る。


「あなたのような人、この会場にいたかしらと思って」


高飛車な口調はジゼルみたいだが棘はなかった。そう感じるのは女性ではなく少女だからだろう。

仮面は年相応に可愛らしく、ピンクと白が基調とされていて、ハートがあしらわれているのだが、その少女の口調は、やけにませているというか、背伸びをした話し方をしていた。


「あなた、お名前は?」


そう聞かれてシスカは焦った。シスカと答えて後でジゼルにシスカが来ていたとバレたら厄介だ。


「お、わ、私は・・・」


なんて答えればいい。名前なんて咄嗟に聞かれても思いつかない。混乱したシスカはすがるように仮面に触れていた。


「わ、私はマスクです。ファミリーネームは内緒で」


「マスク?へえ、変わった名前ですわね」


疑われてる?大丈夫?シスカは腕を組んでシスカを見上げる少女を見て逃げたくなった。


「お、お嬢さんは?」


「ワタクシはレズリー。あなたが名乗らないならワタクシもファミリーネームを名乗る必要ないですわよね」


レズリーはそういって美しいブロンドの髪を後ろにはらった。


「は、はい・・・」


「それより、マスク。会場に入りませんこと?ワタクシ丁度退屈していたところなんですの」


「え?」


レズリーはシスカの手を引いて会場へと歩いていく。

会場に入ると眩しいくらいの灯りときらびやかさと、それから周りの雰囲気に喉のつまる思いがした。

そして若干悪寒もする。体調が悪いとかではなく、誰かにじっと見られているようなそんな感じがする。どこだ、どこで見ている?俺の姿おかしいか?あ、この仮面の持ち主!?まずい、猫ババしたと思われている?シスカの仮面の下はみるみる青く血の気が引いていく。


「レズリ―お嬢様」


レズリ―とシスカの前に現れたのは、茶髪で片目を前髪で隠した大人びていて優しそうな使用人の男性だった。使用人は仮面をつけないらしく、彼の優しそうな笑顔を見てシスカは少し安心した。


「エイズラよ。ワタクシの使用人」


「初めまして、エイズラと申します」


「マ、マスクです」


使用人・・・凄い、立ち姿から一級品の使用人としての雰囲気を漂わせている。シスカは思わず気圧されてしまった。

笑顔を絶やさず、物腰も柔らかい。エイズラは使用人の中でも目立つほど洗練された雰囲気を漂わせていた。

エイズラは、すっとシスカに手を差し出した。こういうところも大人だ、シスカが手を伸ばすと、いきなりぐいっと抱き寄せられた。


「!?え・・・」


抱き寄せられたシスカの腹部にはレズリ―に見えないように銃口が突き付けられていた。


「お嬢様に気安く近づいてんじゃねえぞ。マジお前ぶっ殺されてえのかよ、何お嬢様の隣に2分以上居座ってるの?何お前、マジお前ありえないからほんとに。誰お前、2秒で忘れたわお前の名前なんて何気安くお嬢さまに僕を紹介してもらってるの?舐めてんのマジで気安くお嬢様に話しかけられてんじゃねえよふざけんなよ。てめえのような便所虫みたいなヤツは一生地面に這いつくばって塵でも食ってろカス野郎が。一生お嬢様に近づくんじゃねえぞわかったかボンクラ」


こっわああああああああああああああああああ。うちのお嬢様の80倍くらい口が悪いんだけど何この人!?え!?何この人!?シスカはカタカタ震えながら立ち尽くしていた。


「戻りなさい、エイズラ」


「はい」


シュタッと使い魔のようにレズリ―の後ろに控えたエイズラは、さっきのが嘘のように晴れやかな人当たりの良い笑顔を浮かべていた。


「ごめんなさいねエイズラったら仲良くなれそうな人にはこうして自己紹介の後過度なスキンシップをしてしまうんですの」


とうのエイズラはレズリ―が見ていないのをいいことに、後ろでべろんと舌を出し中指をたて完全にシスカをあおっていた。

コイツだ!!さっき俺のこと殺気全開で見ていたヤツ!!人は見かけで判断してはいけないということを改めてシスカは胸に刻んだ。


がしゃんと、グラスが割れる音がやけに大きく響いた。


「なにごとですの?」


一斉に視線がそこに集まっていた。レズリ―と共にシスカが音のする方を見ると、その中心にいたのは、やはりジゼルだった。

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