第15話

 これからリアの父はダリアステラの宰相、グレゴール・ブルツェンスカになると誰が予想できたろうか?グレゴールに差し伸べられた手をとり瞬きをした瞬間、薄暗い地下の部屋から柔らかい日差しが入る教会のようなところに移動していた。魔法石を割らずに移動したということはグレゴールかジークリートのどちらかが魔法持ちなのだろう。


「これが転移魔法……」


 と感心しているとグレゴールは髭を触りながら


「ほう、魔法に関心があるのか。今まで習ったことは?」


 リアは首を振り、習っていないと答えた。使えない人間だと殺されてしまうのだろうかと不安に思っていると、ジークリートはそれを察したのかこう言った。


「大丈夫だ。これから学び、グレゴール様のお力になればいい」


「学ぶ?」


「これから向かう場所は魔法を学ぶ学校だ。しっかり学べ」


 頭を撫でられた。ごつごつした手は思いのほか優しく、レオナールやアレンを思い出した。二人は無事だろうか?探してくれているだろうか?まさかダリアステラの宰相の元にいるとは考えもしないだろう。助けに来てくれる可能性は無いに等しい。


「はい、兄上」


 今まで実兄にもこんなに優しく撫でられたことはない。暴力を振るわれるのが普通になっていたので変な感覚である。しばらく森の中を共に歩いていると建物と子供の声が聞こえてきた。


「あっ父上!兄上!」


 と一人の子供がこちらに気づいた。すると子供たちが集まってきて整列する。


「私の子供たち、みんな元気かな?」


 グレゴールの問いかけに子供たちは揃って「はい!」と返事をする。


「新しい兄弟を連れてきた。リアだ。仲良くするように」


 みんな揃って「はい!」と元気よく挨拶する。グレゴールはリアの背中を押した。


「よろしくお願いします……」


 こんな大勢の子供に会う機会が無かったので少し戸惑っていると一人の女の子が駆け寄ってきて


「私、ヘレナ。よろしくね!リア!」


 と手を握った。そしてぐいぐい引っ張られた。きっと遊ぼうと誘っているのだろう。振り返ってグレゴールやジークリートを見ると行ってもいいと頷いていた。


「へレナ、よろしくね」


 へレナはリアにニコッと微笑んで、女の子たちの元へ案内した。振り返るとグレゴールとジークリートは忽然と消えていた。


「どうしたの?父上と兄上は忙しいからすぐ転移魔法でどっか行っちゃうよ」


「なんでもない。へレナも魔法持ちなの?ここはみんな魔法持ち?」


「ここはみんな魔法が使えるよ!ほら!」


 へレナは人差し指の先に火を蝋燭のように灯す。そしてすぐに消す。


「燃えちゃうから出すのは禁止されてるの。でも私は火しかまだ出せないから……。内緒ね!」


「うん。その魔法ってどうやって出してるの?」


「えっと、指先に集中して……って今やったらダメだよ!怒られちゃう!」


 リアは人差し指をじっと見つめたがへレナに止められた。


「初めて魔法を使う人は加減が分からないから先生に教わってから!まずはみんなと仲良くなろうよ!」


 へレナは女の子たちのそばに座り、花冠をリアの頭に乗せた。ニコニコと笑うへレナにお礼を言う。女の子たちはリアに花冠の作り方を教えてくれた。いつもお花の世話や妹たちの世話がほとんどで同年代の子と遊べなかったのでとても新鮮に感じた。

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