第10話
応接室を出ると一番に母の自室にレオナールと一緒に向かった。
「お母様!私、とても素敵な方と巡り会えたわ!」
まだ二歳の妹を使用人とともに寝かしつけていた母は口元に人差し指を添えて静かにと合図した。部屋を変え母にレオナールを紹介した。
「貴女を大事にしてくれる方に巡り会えたのね。リアがこんなに明るい笑顔になるのは初めて見たわ、幸せにね」
リアは涙を浮かべて母や幼い妹たちを置いていくことを謝まった。
「お母様。私だけ幸せになって良いのでしょうか?」
母はリアを抱きしめた。背中を撫でる優しい手に涙が溢れた。
「大丈夫よ。これはお父様が決めた結婚なの。そこで幸せになっても不幸になってもそれは自由よ。貴女だけは幸せになってね。さぁ涙を拭いて笑いなさい。レオナール様、娘をよろしくお願いします」
母は深く深く頭を下げた。レオナールは頭を上げるように言ってしっかりと母ビビアンの目を見て誓った。
「必ず幸せにします。この先何があっても彼女を守ることを約束します」
母への挨拶が済んでそのままリアはアレンに引き渡された。
「それでは娘をよろしくお願いします。アルガナントでは魔法持ちの子供が誘拐される事件が多発しています。アレン殿も護衛を雇っておられますが念のため護衛五人ほど付けさせます。使える者達を用意させますので少しお待ちを」
レオナールの父アレンはマイケルに礼を言った。レオナールはアレンに申し訳なさそうに謝罪した。
「父上、リアを今日一緒に帰りたいとワガママを言って申し訳ありません」
アレンはレオナールの頭に手を置いて「問題ない」と言った。そして笑顔でリアを歓迎した。
「リア、君が我が家族の一員になることを嬉しく思うよ。レオナールは次期当主だから跡継ぎを産んでもらわなければならない。リアにとって大きな負担が掛かることは間違いないがそれでも良いかな?」
「私は今まで望まない結婚をして子供を産むのが仕事だと思っていました。でも今は望まない結婚だとは思いません!とても幸せ者です」
アレンは安心したかのように微笑んだ。マイケルが護衛を連れてきてソティアラへ帰る準備ができ、馬車に乗り込みリアはモラレス邸を馬車の窓から見た。花の世話は使用人に頼んだ。持て余すようだったら枯らして減らしてもいいと言った。レオナールから貰ったマグノリアだけは手に握りしめて
「さようなら」
と小さな声でこれまで暮らしてきた家と家族に別れを告げた。その声が聞こえていたようで
「寂しいか?」
アレンはリアに問う。正直新しい生活は不安で全く知らない国に行くことに全く抵抗がない訳ではない。だが今の生活は良いものではなかった。
「期待と不安があります。ですがモラレス家ではあまり良い思い出はなかったので期待の方が大きいです」
「大丈夫だよ。母上は優しいし、もう部屋だって用意してあるんだ。まだ侍女は決めてないけど温厚な性格の者をつけるつもり!」
「ありがとう。アレン様、ありがとうございます」
「もう義父だろう?寂しいではないか」
とレオナールの父アレンは少し不満げに言った。リアは慌ててすみませんと謝まったがアレンは冗談だと笑って
「いつかその言葉が自然に聞けるのを待っているよ」
リアは元気よく返事をした。男性にこんなに優しく話しかけてもらえるなんて今まで想像もしなかった。これからは人間らしく想われたり想ったり笑って生きていけると考えただけで何か込み上げるものがあった。馬車の窓から領地から出た初めてみる景色を眺めていると一人の護衛と目が合った。護衛はリアにお辞儀をした。きっとお父様の護衛だから見覚えがあるのだろうと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます