第5話

 今日はフレール家当主とその息子が私を品定めする日だ。父のマイケルはフレール家当主に気に入ってもらえるように、この日の為に仕立て屋でドレスを仕立てた。


「お前にモラレス家の命運がかかっているのだ!」


 と普段は手を出さない価格の生地を手に取り、この生地で作ってくれと頼んだ。こんなに高級な生地に触った事がなかったし、普段着飾る事がなかった私は父のマイケルはお金のためにしている事だが最初で最後のプレゼントを貰ったようで嬉しかった。


 朝早くからドレスを着せてもらったり、お化粧を軽くして髪を綺麗にしてもらった。ふと思い出した。花壇に水をやるのを忘れていた。自由になれたのは全て準備が終わった後だった。汚れるから決して部屋から出るなと言いつけられたが気になって庭に出てきてしまったがドレスは膝下の丈の長さでさほど動きにくい訳ではなかったし、少しの間ならバレないだろうと花を観察していた。


「綺麗だ……」


「え!?」


 と誰かの声が聞こえたので驚いて振り返ると、そこには私より少し背が高くコバルトブルーの髪と透き通った瞳をもつ少年が立っていた。果たしてなんと返事をしたらいいのかと考えを巡らせていると


「突然すまない!私はソティアラのフレール家の当主の息子でレオナールと言います。庭の見学をさせてもらっていて、花のことが聞きたくて話しかけたつもりが……」


 と名乗ってくれた。縁談相手だ。慌てて自分も名乗る。


「そうとは知らず申し訳ございません。私はモラレス家当主の娘、リアと申します」


「リア……とてもいい名前だ。ここは君が手入れしているのか?」


「はい、使用人と共にお世話をしています」


「立派な庭だ……」


 女の私を褒めるなんて変わった人だなぁと思っていたら


「リア!!綺麗な服を着せたのにどうして土いじりなどしている!?」


 と遠くから父のマイケルの怒号が聞こえてきてバレてしまったと震える。レオナールという少年によく似た大人がマイケルを押さえてくれて殴られる事はなかった。


 応接室に入って父の隣に縮こまりながら座る。レオナールという少年とその父親は向かいに座って言った。


「手紙で送られた絵より実物の方がお美しいですね」


 父は上機嫌で笑った。


「ありがとうございます。自慢の娘でして!」


 そんな事微塵も思ってないだろと心で呟きながら話を聞いているリアは庭がある方向の窓を見た。まだ水やりは途中だった。あのワガママ兄弟の世話に悪戦苦闘している使用人たちはきっと水やりを後回しにしているだろう。リアが窓を見つめているのに気付いたアレンは


「そうだ、レオナール。ここからは大人の話だ。二人でさっそくデートでもどうだ?」


 レオナールという少年は顔を真っ赤にして立ち上がった。


「デートじゃなくてお互いを知るために二人で少し話をしてきます!!行こう!」


 リアが座っているソファまで来たレオナールはリアの手をとって部屋を出た。

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