最終話 裏?表?

「な!?なんで?いつからそこに座ってたんですか?」

一体いつから聞いてたんだろう?

その前に何時部屋に戻ってきたのか全然わからない。

気配も何も感じなかったからだ。

「ミャーちゃんがそこまで言ってくれてるのに……シュウ!なんでお前は応えてやらないんだよ」

「そうだそうだ、高瀬さんがこんなにヒデの事、考えてくれてるってのに」

「ヒデ坊は何時まで経っても奥手だねぇ」

三人は好きな事を言ってる。

「……お前らがそこにいたら、言える事も言えなくなるだろうが!」

あ、怒ってる。主任の怒った顔初めて見た。

……カッコイイなぁ~って、そうじゃないよ!

「せっかく主任が答えてくれそうだったのに、三人ともヒドイですよぉ」

「ほらみろ、智!お前が様子見ようって言いながら部屋に静かに入るからだぞ」

「敏夫だって、後に続いてきてたじゃないかよ」

「なんでボビーさん止めてくれないんですか!」

「この二人止められる人間なんかいないからなぁ」

そんな事を言う三人の表情は、悪びれた様子なんか微塵も感じられない。

「俺らの事なんか気にしないで、いないものと思って続けてくれ」

「続けられるか!」

「私も続けてもらっても構わないのに……」

主任の気持ちが知りたい。それがたとえ望む結果で無かったとしても……このままじゃ気になって仕方ないもの。

「高瀬君……帰りにちゃんと言うから」

「おぉ!聞いたかボビー?」

「聞いたともこの耳で!」

「さて、ポチ、帰ろっか。美亜ちゃんも早くヒデ坊の気持ちが聞きたいだろうしね」

「だな」

「って、事で、俺は今日は寝る事にしたから解散な」

「おうボビーおやすみ~」

「ごっそさ~ん」

そう言うと、智さんと敏夫さんはアッという間に帰っていった。

「え?えぇ~??」

「ボビー、片づけは?」

「そんなもん、明日でもできるからいい。……って思ったけど、俺はこの後、一人で雑炊食べて片づけして寝る。ヒデは高瀬さんに言わなくちゃいけない事があるだろ?ほらほら、高瀬さんがお前に呆れちまう前に言う事伝えとけ」

なんだか追い出されるように、帰路につく事になった。

「ボビーさん、ご馳走様でした」

ペコリと頭を下げようとしたら

「高瀬さん、ヒデは鈍感で大変だと思うけど、よろしく頼むな」

って、逆に頭を下げられてしまった。

「ボビーさん。私の方こそよろしくお願いします」

「……ボビー、俺放ったらかしで話進めるなよ」

「ヒデが泣かすような真似したら、すぐに俺達に言うんだよ。トシに逮捕してもらうから」

「そんな真似するか!ってか、なんで逮捕なんだよ!」

「それじゃ、高瀬さんおやすみなさい」

「ボビーさん、ご馳走様でした。おやすみなさい」

「無視かよ」

「ヒデ」

「色々ありがとな、ボビー」

「送り狼にならないようにな」

「あのなぁ」

「じゃ、気を付けてな」

そう言うと、ボビーさんは早く行けとばかりに手を振り始めた。

「本当にありがとうございました」

「ボビーご馳走様、またな」

ボビーさんと別れて主任の家に向かって歩き始めたものの……会話がしにくい。

なんて話しかけよう……別に会話を拒絶されてるわけじゃない。

美味しかったですねとか、そんな会話はしてるんだけど……続かない。

なんか意識してしまって、お互いに会話が進まないって感じだ。

そんな感じのまま主任の家に着いてしまった。

「……着いちゃいましたね」

「高瀬君、時間まだ大丈夫かな?」

時計を気にしながら主任がたずねる。

22時過ぎ……明日から仕事だけど、このままじゃ帰れない。

それに帰ったとしても。このままじゃ気になって眠れない。

「はい、大丈夫です」

「送ってはいくんだけど、その前に、家でさっきの話の続きを……する?なんか照れ臭いけど」

街灯から距離があるのもあって、ハッキリとは見えなかったけど、主任の顔が赤くなってるような気がした。

「は、はい」

さっきまでは智さん達がいて勢いでいけたけど……考えてみたら二人っきりだ。

急に恥ずかしくなってきた。

「散らかってて申し訳ないけど・・・」

そう言うと、玄関の扉を開けて、主任が招き入れてくれた。

主任は散らかってるって言ったけど、そんな事はないと思う。

玄関からリビングに案内される。

「飲み物持ってくるから、ソファーにでも座ってて」

そう言うと主任はリビングから出ていく。

どうしていいのかわからなくて、ついキョロキョロと室内を見てしまう。

ソファーの周囲には、いくつか箱が積んである。

それと、ボードゲームか何かの箱だろうか?

唯一わかったのはモノポリーの箱ぐらいだけど。

どうやら、そのままここにあるゲームで遊んでたって感じだ。

「ごめんね、カードの整理してる時にタカシ達が遊びにきてさ。そのままなんだよ」戻ってきた主任が紅茶のカップを置いてくれる。

「面白そうですね」

「ボードゲームも面白いよ、ここにある『カタン』ってゲームは……って、そんな話をする為に高瀬君に上がってもらったんじゃなくて」

「どんな話なんですか?」

ちょっと意地悪だったかもしれない。

でも、主任の困った顔が可愛いから見たい。

さっき智さんに言われた事を思い出して、上目使いで聞いてみた。

「だから、そんな風に見ないの」

照れてる、可愛くて仕方ない。

「だって、主任のそういう照れた顔が……」

「見たいの?」

「可愛いんですもん」

「そういう悪戯っぽい高瀬君も可愛いけどね」

可愛い?……主任の口から?

「えへへ、可愛いですか?」

しまったって顔してる、みるみる主任の顔が赤くなる。

「いや、その」

「否定するんですか?」

また上目使いだ。

これは、主任にかなり効くのがわかった。

「高瀬君」

「……はい」

怒らせちゃったかな?

「高瀬君…………その、僕はこの先、きっとたくさんの苦労を君にかけると思う。それでも良かったら僕と付き合ってもらえないかな?」

「そんなの主任と一緒だったら大丈夫ですよ。私、主任の事、ずっと見てたんですよ。昨日、主任と急に親しくなれて、凄く嬉しくて、でも勢いに任せて嫌われてないかなって不安で」

嬉しくて、涙が溢れてしまう。

「高瀬君……」

主任は私の隣に座ると、抱き寄せて、頭を撫でてくれた。

「高瀬君が入社してきた時ね、可愛い娘だなぁって思ってたんよ?でもさ、わかったと思うけど、僕ってこんなやん?ボビーとか、智や敏夫見てるとさ、自分がどんどん置いてけぼりにされてるような感覚になるんよ。あいつらが凄いってのは承知してるんだけど、一緒にいた仲間がどんどん先に行ってる気がしてさ」

「そんな事ないですよ、主任だって凄いですよ」

「どうなんだろう?自分じゃわからないよ」

「私にとって主任は凄い人なんです」

「凄い?」

「入社して間もない頃、私がミスした書類で、取引先に迷惑かけた事あったじゃないですか」

納入日の記入ミスに気がつかなくて、納期に間に合わない。そんなミスだった。

当然取引先だけじゃなくて、その先の取引先にも迷惑をかける事になる。

些細なミスなのかもしれないけど、取り返しのつかないミスだった。

「ミスは誰だってするんだよ。後悔しない人生なんかないんだから」

「アッという間だったじゃないですか、色んなトコに連絡して結局大きな問題にはならないで済んで……なんて凄い人なんだろうって思ったんですよ」

「それは、たまたま僕の担当してた客先や、メーカーの方でなんとかなったからだよ。そもそも新人に書類任せて確認しなかった担当が悪い。あれから高瀬君はミスしないように気を付けるようになったし、みんなも気を付けるようになったやん?それでいいんだよ。僕だってたくさんミスしてきてるもの」

「あの時もそうやって慰めてくれたんです。私、あの時から主任の見方が変わったんですよ。それまでは仕事できる人なんだなぁってそれだけだったんです。でも、凄い優しい笑顔を見せてくれる人なんだなって、普段はどんな事してるんだろう?どんな顔して笑うんだろう?って……」

色んな気持ちが言葉になって溢れる。

「僕はね、昨日高瀬君に店で遊んでるの見られて、正直しまった~って思ったの、だって僕やったらこんんな上司イヤやもん。なのに、高瀬君、一緒になって遊んでくれたでしょ?なんか嬉しくてね、ムキになってる高瀬君可愛いなぁって。で、ダメ元で食事に誘ったんだよ。食事も美味しそうに食べてて可愛いなぁって」

はにかんだ笑顔だ。……少し困ったようにも見える。

「……高瀬君」

「はい」

「僕さ、高瀬君が好きだよ。いきなり重たいかもしれないけど、真剣に将来の事を考えて付き合っていきたいと思ってる」

私の目をじっと見つめて、真剣な顔で主任はそう言った。

「わ、私も主任の事が好きです。こちらこそよろしくお願いします」

涙が止まらない……嬉しくて涙が溢れる。

「泣かないでよ……」

そういう主任の目からも涙がこぼれてる。

「なんで主任まで泣いてるんですか」

「緊張してたのが一気に切れたって感じ。それに」

「それに?」

「自分の好きな人が、自分の事好きでいてくれるなんて嬉しいでしょ?嬉し泣きだよ」

「もう」

自然と笑顔がこぼれる。

「高瀬君はやっぱり笑顔が素敵だよ」

「主任の笑顔も素敵ですよ。でも、お化粧くずれてるから、今はあんまり見ないでください」

「色んな高瀬君を見せてほしいもの」

「私だっていろんな主任を見せて欲しいですよ」

「先は長いもの、ゆっくりお互いを知っていこうよ」

「はい」

「主任って呼ぶのはやめようね」

「じゃ、高瀬君もやめてくださいね」

「わかったよ。……美亜」

顔を真っ赤にして主任が初めて名前で呼んでくれた。

「聞こえないです」

「聞こえないワケないやん?」

「ちゃんと呼んでください」

「仕事の時は今まで通りだからね。……美亜」

優しい笑顔だ。

「はい、秀一さん」

なんだか照れ臭くてお互い顔が赤いのがわかる。

「これからよろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」

「会社ではしばらく今まで通りね」

「どうしてですか?」

「いや、照れ臭いし」

「照れ臭いし?」

「今の印象のままの方が仕事しやすいし、遊びいけるし」

「遊び?あ~!?やっぱりあのお店で遊んでたんですね!!」

「いやいや、時間の調整とか息抜きにね」

「もう!引き継ぎする時はそういうのも含めて色色と教えてくださいね」

二人でデュエルしたりできるって楽しそうだなぁ・・・。

「いきなりサボリ宣言なん?」

「時間の有効活用です」

お互いクスクスと笑いだしてしまった。

「美亜は仕事してる時とのギャップがありすぎだよ」

「秀一さんには言われたくないです。裏、表ありすぎですよ」

「そんなことはないさ、どっちも僕やしね」

「私だってどっちも私ですよ」

「そういうトコもこれからお互い見つめていけばいいさ」

「隠し事は無しですよ?」

「もちろんさ。ありのままの僕を好きになってくれたら一番嬉しいもの」

「どっちの秀一さんも私は好きですよ」

「僕もだよ」

嬉しくてニヤけてしまうのがわかる。

これからが始まりなのかな?

それとも通過点なんだろうか?

肩にもたれた私を見つめ、そして頭を撫でてくれる……温もりがとても心地よい。

どんな顔で明日から出勤したらいいんだろう?

どんな顔をして秀一さんは仕事するんだろう?

ゆっくりお互いを~、その言葉通り、ゆっくりと近づいていこう。

お互いを知っていく事がきっと大切なのだから……。

大好きな人の温もりを感じながら、私はもう少し甘える事にした。




Fin

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表?裏? ピート @peat_wizard

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