第11話 ……可愛い

食材もさる事ながら、ボビーさんの調理の腕前が凄いんだろうな、鍋はアッという間に無くなっていく。

……タカシ君の分って別にあるのかな?ちっとも現れる気配がないけど……どうしたんだろう?

「主任、タカシ君遅いですね」

「タカシのヤツな、急に雑誌の取材したいって連絡あって、今日は来れそうもないって。凄く残念そうにしてたけどね」

私の質問に答えてくれたのは、ボビーさんだった。

あんなに行列できてたもんな。取材かぁ……タカシ君て凄いなぁ。

「なんだよ、ボビーの弟子を見てみたかったのに」

「ボビーに弟子?難儀な子だな、そのタカシってヤツ」

「難儀?」

「ボビー先生とか、師匠とかって、ボビーを呼ばなくちゃいけないやん?それはキツイ、ある意味罰ゲームやん」

「敏夫、ボビーが罰ゲームになってるが正解かもしれないぞ。タカシのヤツ、町中でも師匠!師匠!ってボビーの事呼んでるからな」

「師匠ならええやんか、俺なんかポチだぞ、ポチ」

「嫌がらせしてるみたいじゃんかよ!ウチは愛情こめてポチって呼んでるのにぃ」

「愛情こめるなら、違う呼び方にしてほしいんやけどなぁ」

「無理!却下!不許可!!」

「即答かよ。相変わらずだなお前ら二人は」

主任は呆れ顔で二人を見つめてる。

「何冷静に見てるんだよ。ヒデ坊こそどうしたいんだ?」

「な、何をだよ?」

話の矛先が主任に向けられる。

話がまた戻るのかな?私としては主任の気持ちは聞きたいけれど、この状況だと……私も困る事になるような気がする。

「主任は、あとで話してくれるんですよね?」

……って、追いつめてるし、話題振ってるのと同じじゃん。

「ミャーちゃんはそれでいいのん?シュウはなかなか口割らないぞぅ、きっと」

真顔で言ってるんだけど……微妙に頬の辺りが笑ってるように見えるのは気のせいなのかなぁ。

「美亜ちゃん、上目使いで下からのぞき込むようにもう一回言ってみ、ヒデ坊そういうのに弱いからきっと」

「そうなんですか?」

言われたように、さっそく主任に試してみる。

「た、高瀬君まで悪ノリしない!」

困ってる……可愛い。このギャップがいいのかもしれない。

もっと困らせてしまいたい、そんな悪戯心が沸いてくる。

「ミャーちゃん、もう一押し。さぁ、シュウ、吐け吐いちまえ」

「秀一さん、私のことどう思ってるんですか?」

にゃ~!下の名前で呼んじゃった!

「た、高瀬君?あっ!?ボビー、高瀬君にお酒飲ませたのか?」

「とりあえず、ひれ酒は基本だろ?送ってくのヒデなんだから、高瀬さん飲んでも問題ないだろ?」

「ボビー!さっきから飲んでたのかよ!」

「だって、お前ら車だろ?ヒデのトコに車停めてさ」

「ウチは飲んでも問題ないじゃんか」

「トシがグレるだろ?ましてや、反対にトシだけに飲ませると、店の被害が甚大なモノになりそうだしな」

「ボビーだけ飲んでるってだけでかなり不愉快だぞぉ」

「だから、飲んでも問題ない高瀬さんと飲んでるんじゃないかよ。……ヒデ、高瀬さんってお酒まずかった?」

「いや、高瀬君がお酒飲んでるの初めて見たからなぁ。大丈夫だとは思うけど」

「質問には答えてくれないんですかぁ?」

お酒、そんなに弱くはないんだけど、酔った勢いって事にしておこっと、そうでもないと、こんな事出来ないもんね。

「た、高瀬君??ボビーお冷や持ってきてくれよ。酔ってるんだよね?」

困ってる……でも、なんだか嬉しそうにも見える。

「酔ってなんかないですよぉ、智さん、秀一さんはどんな女性が好みなんですか?」

「聞きたい?美亜ちゃん?」」

「当たり前じゃないですか」

どんな女性が好きなんだろう?すっごく気になる。

「酔ってるよな?」

「うん、酔ってるやろ」

「冷静に観察しなくていいから、ボビー酔い覚ましになるようなもの持ってこいよ」

「シュウは鈍なんだから、高瀬さんが聞いてくれてる質問に答えた方がいいと思うぞ」

「いいから持ってきてくれ」

「わかったよ。でも高瀬さん、酔ってないでしょ?」

「はい、酔ってませんよ」

そう、実際酔ってなんかいない。でも、主任は酔ってるって思ってるのかな?

「酔ってる人間が酔ってますなんて言うわけないやろ?早くお冷や持ってきてくれよ。それと、高瀬君もお酒は今日はもうやめとき」

ボビーさんは、立ち上がると部屋を出ていった。

「ヒデ坊、話すり替えてないで、ちゃんと質問に答えたらどうだ?」

「シュウ、いいじゃん白状しちゃえよ」

二人はこの話題をそらす気はないらしい。

「あのなぁ・・・」

「美亜ちゃん、ヒデ坊はね。美亜ちゃんみたいな可愛い子に弱いのよ」

「お~い」

困ってるのか、諦めてるのか微妙な感じだけど、否定はしてない。

「確かにシュウの前カノは可愛い子だったな」

「そうなんですか?」

「大丈夫、ミャーちゃんのが可愛い!」

私……可愛いかなぁ???

「別に顔で付き合ってるワケじゃないぞ」

「じゃ、なんで付き合ってるだ?」

うわっ、言葉巧みだ。

「そ、それはだな……って、別に高瀬君にだけ答えたらいい質問だろ?」

「だってさ」

「じゃ、あとはお二人でどうぞ」

二人はしてやったりって感じで微笑むと部屋を出ていった。

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