第8話 いいのかなぁ……

店仕舞いを済ませてしまった、ボビーさんの後に続いて、店の奥へと入る。

なんで二重扉になってるんだろう?

「ボビーさん、ここ厨房じゃないですか!」

今にも板前さんとか出てきそうな感じだ。

もちろん、綺麗に調理道具が並んでいる。

「元々、この建物、料理屋だったしね」

「けっこう有名な店だったんやけどね、店主が病気になっちゃって。で、その後はこの有様」

「この有様ってなんだよ。通には評判なんだぞ、『骨董屋ぼびぃ』は!」

どう見てもムキになってる。

「でも、なんで調理道具とか揃ってるんですか?大きな冷蔵庫まであるし」

「生きる上で、美味しいモノ食べないなんてあり得ない!これだけの設備があるんだから、自分で料理するさ」

そう言うと、ボビーさんは、何やら食材を取り出してる。

「主任?」

「ボビー、夜タカシと遊ぶ約束あるんやけど」

「タカシ?こっち来るように連絡しとけよ」

「高瀬君とデュエルする約束もあるんや」

「夕飯作っちまうから、上で勝手にくつろぐなり遊んでてくれたらいいよ。フグを仕入れてきたんだけど、一人じゃさすがに鍋とか寂しいからな」

「フグ?ボビーさん、調理資格持ってるんですか?」

「調理師の免状は持ってるよ。さばいてもいいんだけど、ソレは後の処理が面倒だから、仕入先でさばいてもらった」

「高瀬君、遅くなっても大丈夫?」

申し訳なさそうに主任が訊ねる。

「特に予定はないからいいんですけど、ボビーさん、いいんですか?」

初対面なのに、いいのかなぁ。

「ムサイ野郎ばっかで鍋って切ないからね。できたら食べてってほしいな。それに、ヒデ、鈍だから大変でしょ?」

「みたいですね」

どうやら気付かれてるみたいだ。

「何の話?」

「気にしなくていいですよ」

……こっちはまったくみたいだけど。

「そうそう、気にしなくていいから、上でも店でも好きなトコで遊んどいてくれ」

そう言いながら、慣れた手つきでボビーさんは調理を進めている。

「と、言うことらしいから、専門家に調理は任せて、遊ばせてもらうとしようか?」

「ボビーさん、手伝える事あったら手伝いますから」

「大丈夫大丈夫、後片づけは手伝ってもらうから」

そう言うとボビーさんはニッコリ微笑む。

「それじゃ、ボビー上で遊んでるから、手伝える事あったら携帯鳴らしてくれよ」

「ないない、出来たら鳴らすよ。あ、上あがるときに、空調が動いてるか確認しといてくれるか?」

「店のだよな?」

「そうそう」

「ボビーさん、お言葉に甘えることにしますね」

「苦手な食べ物とかある?」

「大丈夫です。すいません、初対面なのになんだか」

「気にしなくていいよ。鍋は大勢のが美味しいしね。無理に付き合わせてるみたいで申し訳ないのはこっちだし」

「そんなことないですよ」

そんな会話をしてる最中も、ボビーさんの手は止まらない。

「高瀬君、じゃ、昨日の続きでもやろうか」

主任の後に続いて厨房を後にする。

「あ、この扉がちゃんと閉まらないと、店への扉開かないから、ちょっと待ってね」

「そうなんですか?」

「うん、それなりに商品痛めないように気ぃ使ってるみたいやしね」

「それで二重扉だったんですか」

「美術品は湿度とかで痛みがでてくるからねぇ。って、あそこに並んでるのは大して価値あるようなモンないらしいけどね」

「そうなんですか?」

「高い商品並べるよりは、それっぽく見えるの並べておいた方が骨董屋らしく見えるやろ?目利きが利く客じゃなきゃ、価値なんて実際よくわからないのが骨董やしね」

「そんなもんかなぁ」

「そんなもんらしいよ、ボビーが言うにはね」

店内のエアコンの設定を確認する主任に続いて、商品を見てまわる。

価値あるような気がするんだけどなぁ、ココに並んでるのも。でも、目利きできないと偽物とか買わされるんだよなあ、骨董って。

骨董品の鑑定を行うテレビ番組が思い浮かぶ。

ボビーさんて目利きできるのかなぁ。

「ちゃんと動いてるし、気温も湿度も問題ないから、客間で遊んでようか」

「はい」





階段をあがる音が聞こえる。

やれやれ……ヒデのヤツ、相変わらずというか。仕方ない、このボビー様が人肌脱いでやるとするか。

『もしも~し』

『なんだよボビー』

『冷たいなぁ、親友からの電話だぞぉ。それもビッグニュース付きのな』

『ビッグニュース?今度のニュースはなんだ?三丁目のメリーに子犬が産まれたとか、二丁目の元さんに初孫ができたとかか?』

『そんなレベルじゃないぞぉ、今回のは。いいか?』

『あんまりよくないって答えても言うだろ?』

『なんか冷たいぞ、トモ?……さてはトシがなんかやらかしたのか?』

『ポチオはいつもの事だからいいんだよ。爺さんがな』

『どうしたんだ?とうとう死んだのか?』

『なんだ知ってたのかよ。明日が葬儀だから香典持ってこいよ』

『冗談だろ?昨日、飲み明かしたトコだぞ?』

『酔っぱらって散々だったんだ。そうかボビーがご相伴の相手か』

『え、え~と。あんな、ヒデに彼女ができそうなんだよ』

『マジ?』

『マジマジ、大マジやって』

『相手はどんな娘さんなのさ?まさかジャイ子みたいな娘さんじゃないよな?』

『トモ、なんでもかんでも藤子キャラにするのは悪いクセだぞぉ』

『なんだよ、じゃぁ静ちゃんか?』

『だからソコから離れろよ』

『おっかしいなぁ、どんな感じか想像が一番できると思ったのに』

『今日は二人とも非番か?』

『一応はな』

『なんだよ、一応って?』

『敏夫のヤツ、今日はまだ勤務なんだよ。問題なけりゃ解放されるんじゃないかな』

『解放?……また書類放ってたのかアイツ』

『ま、あんな報告書なんて面倒なモン、書かなくていいなら、ウチも書きたくないけどね』

『で、そのツケで出勤なのかよ?』

『報告書やら調書、アイツが出さないから、審理が進まないらしい。そのうち懲罰委員会から呼び出されるんじゃない』

『トシがそんなヘマやらかすとは思えないけどな。それじゃ、トシ連れて飯食いにこいよ。今夜のメニューはフグ鍋だぞ』

『おぉ♪それじゃ、食べ終わったあたりでポチオには連絡をしやう』

『そういう冗談はいいから、二人して来いよ』

『ヒデ坊来てるんだろ?で、その彼女さん?』

『いや、もう一人、タカシって高校生がくる』

『高校生??ボビー、とうとう男に走りだしたのか?』

『俺までホモ扱いなのかよ!』

『ダメ?』

『そんな滅多に出さない可愛い声出しても、ダメなもんはダメに決まってる。俺の弟子だぞぉ』

『……不憫なヤツだな、そのタケシって高校生』

『いきなり間違えるなよ、タカシだタカシ!キヨシじゃないぞ、タカシだからな』

『名字は氷川?細川?』

『演歌歌手にすんな!』

『何時ぐらいに行けばいいんだ?』

『トシと合流してから来いって言うてるだろ?トシにさっさと仕事終わらせるように連絡しとけよ』

『仕方ないな、飼い主として、ポチオをキチンと連れてくよ。ちゃんと残しとかないと、ポチオに暴れさせるからな?』

『わかった。トシのヤツ、狙ったように掘り出し物破壊するからな。キチンと残しとくよ』

『それじゃ、また後でな』

『ほいよ』




「主任、ボビーさんって楽しい方ですね」

「高校からの腐れ縁ってヤツだよ。料理の腕前は下手な店で食べるより上手いから、夕飯楽しみにしとき」

「タカシ君のクレープ食べたからわかりますよ。あんなに美味しいクレープ初めてでしたもん」

「そう?そんなに喜んでもらえるなら、またどこか食べに行く時誘おうか?」

「喜んで♪」

これは……デートの誘いなのかなぁ。今日みたいな理由の可能性のが高いんだろうけど。

「さて、昨日の続きをやりますか」

デッキをカバンから取り出し、主任に金デッキを手渡す。

「さぁ、勝負ですよ」

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