第3話 謎だらけ?

ファミレスでの会話は、主任対する質問攻めだった。

会社で見せてる姿とは正反対なんだから仕方ないのかもしれない。

「主任、たまに外出してたのはタカシ君達に呼ばれたからなんですか?」

「そればっかりじゃないけどね。ちゃんと仕事もしないかんしな」苦笑いを浮かべ主任は、私の質問に答えてくれた。

「そんなに会社と違うかなぁ」

「全然違います!だって入社して2年目になりますけど、あんなに楽しそうな主任初めて見ましたもの」

「そうかなぁ」

「慰安旅行も主任欠席してたし、忘年会とかの類って全然出席しないじゃないですか」

「う~ん、飲み会ってあんまり好きじゃないし、休日ぐらい自分の好きな事したいやんか?旅行っていっても、気を使いながらの観光やからねぇ」

「で、大会とかに出場してるんですか?」

「日程が重なってると、大会優先しちゃうんよね」悪びれた感じもなく、ニッコリ微笑む。

「出世とか考えてないんですか?」

「年功序列や終身雇用も解体されてるんしね?出世したトコで会社が倒産するかもしれないし、リストラされてしまうかもしれない。まぁ、今のところ会社には不満もないけど、それならやるべき事やって、プライベートは自分の為に充実した時間にしたいさ」

「でも、主任って同期の方の中で一番早く主任になってるって聞きましたよ」

「たまたまだよ。あと何年かしたら、僕が一番下になってると思うよ。僕は食べていけるだけのお給料がもらえて、顧客が喜んでくれてたらソレで満足やしね」

「いいんですか、そんなんで?」

「本人がいいんだから問題ないさ。会社が僕にそれ以上のモノを求めてくるなら、また違うんだろうけどね」

「それ以上の?」

「間違ってもないと思うけどね、僕に課長やらせるとかさ」クスクス笑ってる…けど、主任が来期昇進するって話は私ですら噂で聞くくらいだ。実際、営業成績や企画なんかでもかなりの業績を上げてる。

黙々と仕事を片づけていく。それが社内での林主任に対するイメージだった。

社内行事に参加しないのも、商品知識の勉強や、客先を回ってるから…そんな噂だったんだけど。

「…この姿をみんなに見てもらいたいですよ」

「う~ん、見せたくないなぁ」

「どうしてですか?」

「公私は分けたいし、私生活で子供相手にムキになってる上司って…僕はイヤやしな」

「親しみはわくと思うんだけどなぁ」

「それと仕事は別物やんな」

「だって、会社じゃそんな関西弁だって使ってないじゃないですか」

「会社じゃ仕事の会話しかしないしねぇ。なんかみんな遠巻きに話しかけてくるし」

「なんか近寄りがたいからですよ」

「おっかしいなぁ、話しかけられたら、いくらでも話すのに」

「本当ですか?」

「仕事の話ならね。急に世間話とか距離感おかしいやんな?」

「…だから話しかけにくいんですよ」

「そうかなぁ。高瀬君、こうして普通に話してるやんか?」

「子供と遊んでる主任見た時は心臓止まりそうでしたけどね」

「そんなにおかしいかなぁ」

「おかしくはないですけど、そんな主任は想像すらできませんでしたから」

「休み明けからはもう少しフレンドリーに…セクハラとかパワハラとか言われそうやしなぁ」

「そんな事はないと思いますよ」

「学生時代な、急に話すようになったら酔っぱらってる?とか言われたしなぁ」

「いったいどんな変わりようだったんですか?」

「別に変わってなんかないさ、普通に話してたんだけどねぇ。1度出来上がったイメージってのはなかなか消えないみたいやね。さて、遅くなっちゃったけど、どうする?」

「10時過ぎてるの!?うぅ~、残念だけど…またの機会にします」

話し込んでるうちにこんな時間だなんて。

「高瀬君の家って確か北区だっけ?」

「えぇ、そうですよ」

「じゃ、良かったら送ってもらえないかな?渡したい物あるし」

「渡したい物?その前に主任はどちらでしたっけ?」

なんだろう?

「僕?東区だよ。かなり北区に近いから、そんなに遠回りにはならないと思うんやけど。自宅帰れば、初心者向けのガイドブックあるから渡そうと思ってたんやけどね。でも、遅なると悪いし」

「ガイドブックもらいに行きます。そういえば…主任、あのお店まではどうやって行ったんですか?」車とか置いたままじゃマズイんじゃないかな。

「僕?タカシと店長と朝まで自宅で遊んでてね。店長の車で一緒に出勤しててん」照れ笑いだ、頭をポリポリかいてる。

「帰りはどうするつもりだったんですか?」

あの店から東区までは少し距離がある。地下鉄を使えば問題はないんだろうけど…北区に近いって事は、駅からの距離が結構あるハズだ。

「まぁ、歩いて帰れるし。車じゃ走らないような道歩いて帰ると、いろんな発見があるしね。こないだ見つけた洋食屋なんかハンバーグが絶品でね」

とても楽しそうだ。無邪気な子供と変わらない。

「歩くとかなり時間かかりませんか?」

「足で稼がないと、なかなか情報は手に入らないよ、ネットや雑誌掲載、TV放映されると味が落ちる店もあるし。この手の情報が案外仕事で役だったりするし。それに運動にもなるしね」

「そうなんですか?」

「営業や企画なんてのは情報が一番重要やからね。それも、まだ他社が目を付けてないようなのがね。タカシ達から聞く子供の視点からの情報や意見ってのは凄い重要やと僕は思う。なにせ、彼らが数年後には社会に出てくるワケやからね。『子供』って決めつけてしまうと、『大人』の頭じゃ出てこない発想を簡単にダメって否定しまう。コレってかなりもったいない事だと思うよ。って、つまんない話になっちゃったね、行こうか」主任は少し寂しそうに微笑むと伝票を持ってレジへと向かった。



「主任、私の分は…」

「送ってもらえるしいいよ。遅くまで付き合わせたしね」

レジで財布を出す前に支払いを主任が済ませてしまったから、車内で自分の分払おうと思ったのに。

「でも…付き合わせてしまったのは私の方ですから」

「じゃぁ、またの機会になんか御馳走してもらうよ。駅地下にオープンしたクレープのお店とかね」

「いいですよ。楽しみにしてますね」

「…そんな簡単にOKしてもらえるとは思わなかったなぁ」

「社交辞令ですか?」

「どんどん遅くなっちゃうから、安全運転でね。さすがにこの歳になると女子高生に混ざってクレープ買うのは少し抵抗がね」苦笑いを浮かべてはいるものの、主任の顔は嬉しそうだ。

「そういうのは気になるんですか?」

「ちょこっとはね」そう言うと、親指と人差し指をくっつけ見せる。それって、ほとんど無いんじゃ。

「タカシ君達と遊ぶのは気にならないのに?」

「まあね」

「端から見る分には変わらないような気がするんですけどね」

「…そっか、なら高瀬君と行かなくてもいっか♪明日にでも行こうかな」声がはずんでる。余程食べたかったらしい。

「そうなんですか?」

「いや、付き合ってくれるなら一緒に行くけどね」

「楽しみにしてます」

・・・デートとかじゃないけど、プライベートの主任見れる機会なんてそうそうないもん。

「いつにしようねぇ…おっと、次の交差点を左に曲がってもらえるかな」

「あの自販機があるトコですか?」

「そうそう、曲がって少し行くと見えてくるから」

「どの辺で止めたらいいですか?」

「そこに青の1BOX止まってるでしょ、その横に止めてちょっと待っててもらえるかな」

「主任、実家暮らしなんですか?」

「いや、若いうちにと思って去年買ったんだよ」

主任の家は…たぶん建て売りかなんかだろうけど、一戸建てのしっかりした住宅だった。

「主任って…」

「うん、何?」

「見せてないトコだらけじゃないですか!」

「そんな事ないさ。聞かれないから話さないだけだよ。遅くなる前に取ってくるから、ちょっと待っててね」そう言うと主任は家の中に入っていった。

主任って、ホントにどんな生活してるんだろう?

もの凄く興味がわいてきた。これは恋なんかじゃなくて、間違いなく好奇心なんだけど。

でも…少し憧れてたのも事実なんだよなぁ。

主任は気付いてないだろうけど。



「高瀬君、遅くまで付き合わせてごめんね。これもなかなか珍しい初心者ガイドブックだから、あとは公式のHP開いてみるか、僕のメアドも書いてあるから、直接メールくれればいいよ。ここからの道わかるかい?」そう言いながら手提げ袋を渡してくれる。

メアド、プライベートのをわざわざ教えてくれるんだ。

まぁ、社内メールでこんなプライベートの事は聞けないけど。

「はい、大丈夫です。…主任、今度勝負の続きしてくださいね」

「もちろん、喜んで相手させてもらうよ。じゃ、またね。おやすみ」

「おやすみなさい」

サイドミラーに主任の姿が見える。

見えなくなるまで見送ってくれるのかな…主任、こういうのわかってやってるのかなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る