第9話 私たちの新居

「それじゃ早速家を建ててちょうだい!」


 四大精霊さんたちと契約したことで、懸念していたことは気にしなくてもいいのです。

 ミシェルの構想する素敵なカフェを早く見せてくださいな。

 私は期待して待つことにしましょう。


「そんな期待されても……。まあ魔法ですぐにできるので少々お待ちください。せっかくですからお茶でもどうぞ」


 そう言うとミシェルはあっという間にテーブルと椅子を準備し、ティーセットなども出して紅茶をいれる。

 気づいたら私も座らされているという早業。

 そのような曲芸じみたことに力を注がなくてもよいのですよ。

 何を目指していたのか知りませんが、お屋敷にいたころはこんなことばかりやっていましたね。なんだか懐かしいですわ。


「それでは。えーと、ここをこうして……あそこに……でこれを……」


 なんだかいろいろな事を同時にこなしているみたいですね。

 精霊さんたちのお力を借りて周囲の木を木材にしたり、魔法で何やら作成したりといつになく真剣な表情をしています。

 いつもこの顔で仕事をしていればメイド長たちにお小言を言われることもなかったと思うのですが。ただでさえ孤児だったというだけで煙たがられていたというのに。

 その上私の専属侍女ですからね。他の侍女の陰口が絶えませんでした。

 まあ、私としましては普段のミシェルが気に入ったから傍に置いていたのですけど。

 こんなこと本人には絶対に言いませんよ。調子に乗りますからね。


 ミシェルを眺めながら待つこと二時間。


 ようやく家が完成しました。

 ようやくと言っても作っていたのは家です。それを考慮するとたったの二時間ですね。

 とても早いです。街の建築家さんたちもびっくりすることでしょう。

 魔法をこんな風に使う人なんていませんもの。


 それにしてもなかなかいい家ができましたね。

 あまり知識はないので何とも言えませんが、お屋敷やお城は石造りだったはずです。

 それに対してミシェルは木組みの家を建てました。


 しかし、それがこの森の雰囲気にとてもマッチしています。

 派手さはなくシックなものを作ったとミシェルは言っていました。

 シックが何かは知りませんが、すごくいいです。私は好きですよ。

 三階建てのようですね。一階がカフェ、二階三階が私たちの生活空間となっています。

 カフェは中央に丸テーブルが三つほど並び椅子が四脚ずつ配置。壁際には一~二人用のソファが数台並び、オープンキッチンにカウンターまで。

 ここになかったらどこかの酒場のようなお店に感じますね。しかしこれはカフェです。そこは間違いようもありませんとも。


「うんうん。とてもいいですね。さすがミシェルです」


「光栄です」


「しかし少し広すぎるのでは? 一応店員は私とミシェルだけですよ?」


「いや、そんなに人が来ないのでいいんじゃないでしょうか。来るとしてもこの森にいる動物たちでしょう。あとは精霊ですかね」


『そうよ。こんなところに人が来るなんてそうそうないことよ。あっても迷い込んだ人間たちだし、そう言う奴らって大体すぐに元の場所に戻してくれ~とかいうのよ』


「たしかにそうですね。それならよしとしましょう。すぐに開店するわけでもないですし。営業というかどちらかというと憩いの場?のようなものですし」


「決めるのはお嬢様ですからね。お好きになさってください」


「そうするわ。それよりこんないい雰囲気のカフェができたのだから、私コーヒーが飲みたいわ。ミシェル、淹れてくださる?」


「かしこまりました」


 ミシェルがキッチンに向かいました。

 私はその様子をカウンターから眺めるとしましょう。

 ……あぁ。いいですねぇ、これ。まさに理想のスローライフ。感動しました。

 私は気分が良くなり鼻歌を歌い、足をぶらぶらと揺らしながら穏やかな時間を過ごしました。





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