がたんごとん、と電車に揺られている。あの後、目をつむったものの、眠れはしなかった。目の下には、ひどいクマができている。

 電車の揺れで眠りそうになるが、二駅乗り継ぐだけなので、結局一睡もできないまま、目的の駅に到着した。

 眩しい朝日を浴びて、寺まで歩く。


 ぬぉん、とした建物が見える。寺の門をくぐり、中へと入った。参拝客もおらず、辺りを見回しても、誰もいなさそうだ。いやでも、正月以外に入る日が来るとは思わなかった。普段はこんなに人がいないものなのか。恐ろしく静かだ。

 そう思っていると、ジャリッと音がした。振り返ると、頭を丸めたおっさんが立っている。もしかしてここの住職だろうか。聞く前に、おっさんが口を開く。


「諦めなさい」


 そう短く言った。おっさんは哀れむような怒りをこらえているようなよくわからない表情をして、もう一度言った。


「諦めなさい。過去の行いに償いをしなさい」


 おっさんの言ってる意味を俺の中でくだくことができなくて、意味を尋ねようとしたら、若い頭を丸めたやつが俺を追い出す。おっさんは、さっと背を向けて歩いて行く。


「帰った、帰った」


 手でしっしとやられる。まるで犬猫を相手にしてるかのよう。怒る気にもなれなくて、すごすごとあの仄暗いアパートへと帰った。



その日の夜にも、またあの薬指だけが無い女の手が出てくる。今度は、俺の足を撫でてくる。もう触られるのはいやだった。どうにか蹴り飛ばせないかと必死で動こうとするも動けない。なんとか動かせるのは首だけだ。なんとか頭を上げて、足下を見る。

「……」

その女の爪は、赤く彩られてはいなかった。


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