第72話 エルフ崩れ落ちる
「それって何?」
私が聞くと、アランは意味深にほほ笑んだ。
この笑顔は……悪いこと考えている顔よね。
「アリスしか行けない場所に、ダイヤを保管しておく」
はぁ?
という顔を全員がした。
「私しか行けない場所って……」
それって、日本よね。
ニヤリと悪どい顔をして、アランは私に頷いた。
全員の弱みであるダイヤを私が保管って、責任重大。
「アリスの実力はわかっていると思う。たとえ誰であろうと取りに行けない場所だ。万が一アリスが死んでもだ」
アランの申し出を断る理由をエルフは考え込んでいるようだった。
「では、取引ということでどうだい?」
「取引?」
訝し気にエルフはレオンを見る。
自分にはもう取引できるカードなど何もないのに? という顔だ。
「その薔薇は、魔王に返そう。君の処遇も本来ならこちらで裁きたいところだが魔王に一任する。その代わり……今回のことはすべて第一王子一人の所業であり、浄化は魔王と私と協力し瘴気を収めたという事で」
レオンが悪びれもせず作り話を展開する。
「これを機に友好関係を築いた我が国と、魔界は開国に向けて動き出す、って言うのはどう? もちろん主導はこちらで沢山条件があるけど。ああ、アリスが良いと言うならね」
最後にレオンは私に視線を向け、そう付け足し私の腕にくっきり残る腕輪の後を見た。
「私はいいけど、レオンはこんな騒ぎを起こしたエルフを見逃していいの?」
仮にもその気がなかっとはいえ、自分を暗殺しようとした人間だ。
いや、殺す気はなくても間違って死んでも仕方ないとは思っていただろう。
「うーん、別にいいよ。彼を裁いても全く俺に得はないけど、貸しを作れば沢山野心を満たしてくれそうだし。実は人外との友好な開国はどの国でも模索しているんだ。でも、危険な賭けだからなかなか実現しない」
へー、レオンもだてに「王になる」とか言ってないのね。
「わかった。その条件を飲もう。ぐうたらしているのも飽きたころだしな」
ルークがエルフの代わりに答えた。
エルフがまだ何か言いたそうだったが、楽しそうなルークを見てため息をついた。
「アリス嬢。私はあなたを信じることにします。これから先何があっても、そのダイヤを使い魔王様を人間に変えないと誓ってください」
エルフの真剣な眼差しに、私は深くうなずいた。
「今回の浄化はこちらの言い値で請求してもよろしいですね」
話がまとまったのかと、アランが口をはさむ。
それを聞いて、一同が笑いだす。
?
「それ同じことアリスがさっき言ってたよ」
ほっとしたようにライトが笑った。
「じゃあ、俺はこれから城に戻って、魔術院の手入れと兄上を断罪するよ」
さわやかにレオンが言って馬にまたがる。
「アリス、しばらくは学院にいるだろ?」
「ええ、しばらくいる」
レオンは頷くと「じゃあ、あとで報告する」と王子様スマイルでにっこり笑うと去っていった。
帰り際、私はルークを呼び止めて聞いてみた。
「ガラスの薔薇の本当の力を誰から聞いたの?」
この質問にはエルフも興味があったらしい。
「ああ、それか。薔薇を庭に植えた日の夜、ふらりとあの薔薇を創ったという男が現れてな。その男が薔薇を先代の魔王に渡し、魔王が自分の魔力を込めて宝石を創ったそうだ。その後、再度魔王に頼まれて、人間になるための魔法を付け足したらしい」
間違いなくガリレだ。
「その時に人間になりたいか聞かれた」
なんてことを聞くんだ!
「それでなんて答えたんですか?」
エルフが食い気味に聞く。
「興味がないと言っておいた」
「何で不審者が侵入した時に教えてくれなかったんですか」
気が抜けたエルフが呆れたように言い捨てる。
そりゃそうだ。
知っていたらあんな奴とさっさと手を切り、ルークを裏切ることもなかったかもしれない。
「退屈してたところに、面白いことが舞い込んできたんだ。楽しまない手はないだろ」
意地悪くルークは言うと愉快そうに笑った。
エルフは頭を抱えている。
苦労するな。
仕方ない許してやろう。
「あ、その時人間になる魔法は解いていったぞ。なんでも、先代の魔王とは友人だが俺とは無関係だから、もしも人間になりたいなら改めて頼みにこい。だそうだ」
つまり、あの薔薇はすでに魔力を注いで破壊しても人間にはなれないという事か。
「そんな……」
エルフは崩れ落ちた。
「言っておくが、お前は今日から門番だからな」
ご愁傷様。
「そうだ、こっちにいる間、飛竜を貸してやる」
ルークは空を見上げ一匹の竜を指さした。
「あ、コキ」
ライトが竜を見て呼ぶ。
名前知っているんだ。
コキは呼ばれたのが分かったのか、ライトの横にバサリと降りた。
「コキがリリィ様と僕を送ってくれたんだ」
再会を喜ぶようにライトが言う。
「随分なついたな。そういえばお前召喚魔法が解けているぞ」
どうやら知らないうちに、ソルトに召喚魔法を解いてもらっていたらしい。
「本当?」
「ああ、間違いない」
いつの間にライトとルークって仲良くなったの?
「そいつを乗せて行ってやれ」
ルークがアランを見ると、アランはとてもいやそうな顔で見返した。
こちらはお世辞にも仲が良いとは言えないようだ。それから私を色気たっぷりの流し目で見る。
「では、また。いつでも気が変わったら言え」
?
「断る」
答えたのはアランだった。
何の話だ?
私が首をかしげるとリリィ様が後ろでくすくす笑った。
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