第70話 エルフの隠し事
「将軍、人払いを」
あきらめたようにレオンが将軍に命じる。
「しかし、殿下……」
将軍は言葉を濁したが、視線はルークを捉えている。
「大丈夫だ」
「承知しました」
レオンの言葉に従い、将軍は騎士たちを城壁までさがらせ、自分も声が届かないところまでさがった。
「ありがとうございます。殿下、瘴気を浄化するときに使っていた力は薔薇の宝石の力でしょうか?」
なぜこんなにエルフがこだわるのか、理由がわからない。それはルークも同じだったようで、一瞬だが顔をしかめる。
「どうしてそんなことが知りたい? 宝石には国を亡ぼす力でもあるのか?」
「いえ、そのような力はありません。殿下は薔薇が作られた本当の目的をご存じですか?」
エルフは質問に質問で返したが、ごまかすというよりはレオンがどこまで知っているか、知りたいだけの様だった。
薔薇が作られた本当の目的?
本当も何も、女王の寿命を延ばすことで、長生きの魔王と末永く幸せに暮らすためでしょ。
女王が死んでしまってからは、魔王によってかけられた女系家族の呪いを解き、選ばれしものになれば皇太子として、いずれ国王になれるのよね。
だからレオンだって「王になる」とか宣言してたんだし。
それ以外に何が?
レオンも同じことを考えているのか「王女の寿命を延ばす以外の目的があると?」と首をかしげる。
もちろんルークも知らないようだ。
「あー、くどいぞエルフ」
のらりくらりと話すエルフにイラついていたのか、レオンは首から鎖でかけて懐にしまっていた宝石を出し、乱暴にエルフに掲げて見せた。
「これが薔薇の宝石だ、勿体ぶっていないで、わかるように説明しろ」
温和なイメージなのに意外にせっかちなんだな。
エルフはまじまじと、アレキサンドライトを見つめ、これは違う感たっぷりに「これですか……」とつぶやいた。
レオンの眉間に深くくっきりとしわが寄ったのは言うまでもない。
「アリス嬢、薔薇を貸してください」
急にエルフが私の顔を覗き込み近づいて来ると、アランがすかさずエルフを押しのける。
急に動いたせいで、激痛が走ったようだがエルフを押しのけた手はしっかりとつかまれたままだ。
「アラン……大丈夫だから」
私は、先ほどライトに預けていた薔薇を出して手渡した。
一瞬、迷ったがずっとエルフが持っていたのだ、今さら何かするくらいなら、さっさとやっているだろう。
エルフは私から薔薇を受け取ると、それをもってリリィ様に差し出した。
「聖女様、花びらを一枚採ってください」
有無を言わせぬ迫力に、リリィ様は一瞬手を引いたが、私が頷くとおずおずと一枚花びらを千切った。
「手のひらにのせて」
言われた通りリリィ様は手のひらに花びらをのせる。
先ほど、第一王子のように枯れたりはしなかったが、キラキラと虹色に光ったまま、宝石になることはなかった。
「なぜなんだ?」
エルフは心底わからないというふうに、首を傾ける。
「何が違うんだ?」
これ以上は待てないと言う強い口調でレオンが迫った。
「仕方ありません。聖女様まで違うのであれば私の待ち望んだ人物は現れなかったのでしょう……本当はダイヤに変える人間が現れるまで魔王様には秘密にしておきたかったのですが……」
「ダイヤ……」
思わずつぶやいた私に、エルフはえ? という顔を向ける。
「まさかアリス嬢、この薔薇の花びらをダイヤに変えたのですか?」
なぜ私だと、まさかなのよ。
「これよ」
私はポケットから、大粒のダイヤを取り出しエルフに見せた。
「持ち物はチェックしたはずなのに」
「こんな大きなダイヤ落としたら困ると思ってポケットに魔法をかけておいたのよ。でも、魔力を封じられたときに、ポケットまで使えなくなったの」
はっ!
あっけにとられながらも、エルフは肩を揺らして笑った。
「灯台下暗しとはこのことですね。では、アリス嬢、あなたにこの薔薇を壊してほしいのです。叩きつけるなり、踏みつぶすなり好きなように壊してください」
え?
何言ってるのこのエルフ?
「壊すために薔薇の宝石を探していたの?」
「そうです」
エルフは私に薔薇を返してきた。
「こんなきれいに咲いている薔薇を壊せるわけないでしょう」
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