第61話 ライト 正体がばれる
すぐに、一人のシスターが来てリリィの様子を診てくれた。
弱っていはいるが、今のところ命に別状はないらしい。屋敷に帰り魔法石を手に入れた方が良いとアドバイスされる。
「しばらくここで休んでいきますか?」
シスターは申し訳ないように、リリィの顔にかかる髪を手で払い心配そうにのぞき込んでいる。
「あの、知り合いが迎えに来てくれるまで少し静かなところで休ませてもらってもいいですか?」
ここは、目立ちすぎる。
「もちろん、今部屋を用意させましょう」
部屋に案内されると、リリィ様の手を取りぎゅうと握りしめる。
今度こそ絶対離れないから。
トントントン、と意識の外でノックの音が聞こえた。
ハッとして、体を起こす。
目の前にはリリィ様が規則正しく息をしている。
はぁ。
無事だ。
手を握りしめたまま、ベットの横に座って寝てしまったらしい。
トントントン、とまたノックされて、あわてて返事をする。
「会いたいというお方をお連れしました」
声の主はさっきのシスターのようだった。
殿下か?
「どうぞ」
と声をかけるとシスターの後からソルトが入って来た。
!!
思わず大声で叫びそうになるが、ぐっとこらえる。
「ソルト先生、どうしてここへ」
「君は、中等科の生徒か?」
チラリとソルトはリリィ様に視線を移すと、僕を思い出そうとしているように、目線を右上に向け考える。
「はい、中等科一年です」
「なぜ、彼女といる」
訝しそうに上から下まで観察されて、緊張で手に汗をかく。
「リリィ様の護衛を頼まれたので」
僕の答えを聞いていたのか聞いていないのか、ソルトはリリィ様のベッドの横までくると、手を伸ばす。
「ちょっと、何するんですか!」
ソルトの腕をひねり上げ、一瞬結界を張ってしまう。
ヤバい……気づかれたか?
「魔力量がどのくらい残っているか触るだけだ」
「それはシスターに診てもらいました。仮にもリリィ様は男爵令嬢です。いくら先生でもむやみに触らないでください」
少々キツイ言い方になってしまったが、こいつは何をするかわからない。
なおも腕をつかんだままの僕の手を、ソルトは嫌そうに振り払った。
「魔界からはどうやって戻った」
はぁ?
「魔界を浄化して来たんだろ?」
ニヤリ、とソルトは余裕の笑みを浮かべる。
どうしてそれを?
僕は自分でも動揺しているのが分かった、きっと顔は引きつっているはずだけれど、認めるわけにはいかない。
「大した力もないくせに余計なことをするから、魔力切れをおこしたんだろう?」
尚もソルトは意地悪く言う。
何も知らないくせに! リリィ様は立派に魔界を浄化した。
そう言ってやりたいが、リリィ様の力は秘密のはず。
ぐっと、反論したいのを我慢する。
「君には悪いが、ここで会ってしまっては仕方がない」
ソルトの身体に魔法の気配が集まり、またもやリリィ様をつかもうとする。
「やめろ!」
ソルトが何をしようとしているのかわかり、僕は最大の力でリリィ様に結界を張る。
バッチ! っと結界同士がぶつかる音が響き、ソルトは静電気でも感じたかのように、リリィ様から手を引く。
「やっぱりそうか。気のせいかと思ったが、お前が勇者か」
げっ!
バレた……。
「驚いたな、学院にいたのに全く気が付かなかった。お前が自分で隠蔽魔法をかけたのか?」
「……」
「何で、勇者と聖女が一緒に魔界を浄化したのか話を聞こうか」
瞬きをする暇もなく、ソルトが僕の背後に回り左腕で首を絞められる。右手にはいつのまにか短剣を構え、僕に振り上げている。
シールドを最大にして、ソルトを弾き飛ばす。
壁にぶち当たる凄い音がしたが、ソルトは、平然と立ち上がった。
その隙に、リリィ様にさらに結界をかけ、剣を抜く。
「なるほど、本物というわけか」
嬉しそうにソルトが笑い、その手にはいつのまにか短剣と長剣が握られていた。
嘘だろ……。何で、魔術師が二本も剣使うんだよ!
遅れを取らないように、素早く打ち込んでいくが、うまく魔法で交わされてしまう。
絶対俺の方が魔力量は上なのに。
経験の差か。
徐々に、押されてリリィ様のすぐ後ろまでくる。
もっと魔力を上げたいが、自分にかけた強化魔法と部屋に張った結界、リリィ様にかけた結界。微妙に調節が効かず、これ以上魔力量をあげると建物まで吹き飛ばしてしまいかねない。
あれほど、魔力量の調節をもっと繊細にするように言われていたのが、こんな時に分かるなんて。
「力の調節に苦労しているようですね。おとなしく召喚場所に現れれば、きちんと指導できたのに。君に魔法を教えたのはぼんくらの様だ」
ソルトの一撃に、僕の結界が跳ね除けられそうになる。
ちくしょう!
ガリレのことまで馬鹿にするなんて、許さない!。
だてに、魔法書丸暗記してんじゃないんだからな!
ガン!
剣が交わった一瞬をついて、僕は消去魔法を発動させた。
何度も剣をまじ合わせるたびに、魔法陣を作っている呪文をひとつづつ消していたのだ。
剣を強化している魔法が解かれ、耐えきれなくなったソルトの肩に深く僕の剣が押し刺さる。
「馬鹿な」
よっしゃぁ!
思わず拳を振り上げる。
その隙をソルトが見逃してくれるはずもなく。大きな魔力の塊が僕に放たれる。
それを、全身で受け止め吸収する。
実は魔力を受け止めるのは得意なのだ。
ソルトは目を見開いて、驚いている。
「形勢逆転のようだね。あれ、魔力量がすごく減ったみたいだよ。僕、ソルト先生にお願いがあったんだ」
自分でも、今どや顔してるなと思いながら、ソルトを保護魔法で強化して作った檻に入れる。
ガリレの修業の時、魔物を殺せなくて入れていた檻だ。すっかり得意な魔法の一つになっていた。ちょっとやそっとじゃ逃げ出せない。
「僕の、召喚魔法を解いてくれない?」
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