第60話 飛竜
リリィ様の部屋に戻ると、ベッドの横に魔王が立っていた。
慌てて、ベッドに駆け寄るとさっきまで青白かった頬に少し赤みが戻って来ているような気がした。
「お前護衛だろ、どこへ行っていた? ああ、チョロの匂いがする。遊んできたのか?」
あの猫耳の女の子チョロって言うのか、変な名前だな。
「遊んできたわけじゃないよ、城を案内してもらったんだ」
「遊んでたんだな」
魔王の目が真っ赤に光ったような気がした。
アランより怖い奴はいないと思ったけれど、魔王も怖いな。戦うことにならなくてよかった。
「お前が護衛の役目をきちんと努めないから見ろ」
魔王は一番大きな魔力石に視線をやった。
あ、さっきまで光っていたのに、今は全然光っていない。
「リリィ様が魔力を吸収し終わったの?」
「違う。お前がきちんと護衛の役目をはたしていないから。誰かが侵入して、そいつが魔力石の力を吸収していったんだ」
誰かが侵入って!
「じゃあ、リリィ様はどうなるの?」
「どうもならん、これから飛竜で教会まで送る」
飛竜って、ゲームでよく空を飛んでいる?
すごい、そんなのまでホントにいるのか。
「ライト、前にも注意したがお前は少し、イヤかなり警戒心が薄い。注意力にもかけている。そんな奴はいくら勇者でもこの世界では長生きできないぞ」
そんなこと注意されたっけ?
あ、ステータスダダ洩れってやつか。
「反省している」
僕は申し訳なさそうに首をうな垂れたが、魔王は諭すように続けた。
「反省すればいいというものじゃない、自分だけ死ぬのは勝手だが、今回はお前のせいで聖女が殺されていたかもしれないんだぞ。彼女にはまた浄化を頼むから、しっかり護衛しろ。俺ならお前みたいな奴に、二度と護衛を任せないぞ」
胸にグサッと来た。でも、魔王の言葉に僕は素直に頷けた。
「ごめんなさい」
「二度目は無いからな」
「はい」
「ふん、お前が魔王討伐に来ても、負ける気がしないな」
確かに僕も一ミリも勝てる気がしない。
それにしても、魔王って人間が好きなのか?
魔王はリリィ様を抱き上げると、城の階段をどんどん上って行った。
学校の屋上くらいある、だっだぴろい空間に飛竜はいた。
「本物の竜だぁ」
「初めて見るのか?」
心の中でつぶやいたつもりだったが、声に出ていたらしい。
かっこいいけど、これに乗れるのか?
「心配するな、コキは賢い。風がすごいからな、結界くらい張れるだろ」
よほど不安な顔をしていたのか、魔王は笑いながら飛竜の頭をなぜた。
僕は馬のように飛竜に跨ると、魔王からリリィ様を受け取りしっかりと紐で自分の身体と結んだ。
ゆっくりとコキが翼を拡げたとき、魔王が何か言ったが、いっきに振り下ろされた羽の音にかき消され聞こえなかった。
ものすごい気圧と強風に吹き飛ばされそうになる。
あ、結界。
僕は急いで結界を張ると、コキは一声ギャーっと鳴くと、城の上を一度旋回して、さっきよりもさらにスピードを上げて上空に向かった。
結界張るの待ってってくれたのか?
賢いな。
10分ほどで、街の上空に着いた。眼下には遠く港が見え、イスラの城や学院も見える。
自分達とコキに隠蔽魔法をかけると、コキは待っていたかのように、急降下して教会の横に広がる庭に下り立った。
「ありがとう」
コキの腹をなでてやると、頷いたような気がしたが、振り返ることなく飛んで行ってしまった。
僕は通話石でアランに連絡を取った。
急いでいるのか、これからここに第二王子が来て、リリィ様に魔力をくれるから待っているように言われる。
「アランは何処に行くの?」
「魔術院だ。リリィはそのままそこに残り第二王子の指示に従うように伝えてくれ。ライトはフリーで状況確認だ」
「わかった」
フリーって、自分の判断ってことだよな。
ドキドキと胸が高鳴った。
アランの期待に応えなくちゃ。
リリィ様を背中に担ぎ、教会の入り口を開ける。
地球の教会と同じく、ステンドグラスの窓に、天井には一面に宗教画が描かれている。
床は、石畳ではなく大理石のようにつるつるで、ミサでもあるのか、教会の中はシスターのような衣装を着た人や、魔術師のような長いローブをまとった人々がいた。
黒のローブ姿が多い中、グレーの衣装を着た白髪の老人が僕たちに気づき、あわてて近づいてくる。
「病人ですか?」
「魔力切れをおこしていて……」
第二王子を待っているというのはまずいよな。
「ちょっと待っていてください。今人を呼んできます」
なんだか、教会なのに人の出入りが多くてざわついているような気がする。
こんな人目の多い所で待っていていいのか?
「とりあえずこちらに寝かせて」
僕はリリィ様を祭壇の前の長椅子にそっと寝かせた。
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