第26話 アラン視点 反抗期
「アラン、ちょっと来い」
サムはヒョイッと俺の首をつかんで、食堂に連れていかれる。
「何だよ」
食堂にはアリスが待っていた。
「アラン、明日から私の店で働きなさい」
アリスはそう言うと、俺の頭に手をのせ、出て行った。
絶対に怒られると思っていたので、拍子抜けした。
喧嘩は日常茶飯事で、気に食わない事があると、影でいじめてやった。窓を割り、畑を踏み荒らした。
家ができて、しばらくは平和で穏やかだった。寝るとこがあって、食べ物の心配がいらない。不満はないはずなのに、イライラが止まらない。
捨てられるかもしれないと思いながらも、反抗を止めることができなかった。
めちゃくちゃな自分の行動に更にイライラして、また暴れた。
「アリスの気を引きたいなら、暴れても無駄だ」
サムが無表情に、テーブルに暖めたミルクを置いた。
「ここに来る連中は、アリスに拾われてきたやつらだ、俺もな。アリスの愛情を独り占めしたくて、あれこれするが、お前みたいな派手にやらかすやつは久しぶりだ」
呆れて言うサムは怒ってはいないようだった。
「アリスの気を引きたいなら、役に立て」
「俺は別に気を引きたいわけじゃない」
ダンッと勢いよくテーブルに両手をつき、立ち上がる。
そしてサムがくれたミルクのカップを床に叩きつけた。
アリスが俺専用のカップにと買ってくれたものだ。
割れたカップの破片を見て、頭に血が上る。いたたまれなくて、俺は家を飛び出していた。
*
どこをどうさ迷ったのか、俺は結局スラムに戻っていた。
寝ぐらにしていた物置小屋には、知らないやつが住んでいた。
とぼとぼと行くあてもなく歩いていると、急に腕を捕まれる。
!?
「こんなところで迷子かな? 坊っちゃん、ここは危ない、家まで送ってあげよう」
人さらいだ――。
何度となく売られそうになったのだ、間違いない。
捕まらないように、逃げようとするが、正面には数人、仲間がいる。
「大丈夫、心配いらない、私たちは味方です」
ギョロっとした目を見開き、男は醜く笑った。
囲まれてる……。
ジリジリと囲まれている輪が狭くなり、捕まるのも時間の問題だった。
ごめんなさい、アリス。
心の中で呟き、ギュッと目を閉じた。
「アラン! ここにいたのね」
会いたい人の声が聞こえて、俺は信じられない思いで、駆けてくるアリスを見つめた。
「来ちゃダメだ!」
そう叫ぶも、アリスは止まることなく、俺のそばまで来ると、安堵のため息を洩らす。
「良かった、見つかって」
イヤ、良くないから。ピンチが大ピンチに変わった気がして、ギュッとアリスの手を握った。
アリスだけでも逃がさなくちゃ。
「これはこれは、お知り合いかな? ちょうどいい。あなたも一緒に家まで送りましょう」
アリスも高値で売れると踏んだのか、人さらいは上機嫌で愛想笑いを浮かべた。
「結構です。じゃ、」
アリスはそのまま、男達の横を通りすぎようと、俺の手を引いて歩き出す。
「お嬢さん、大人の親切は素直に受けるべきですよ」
ニヤニヤと男は仲間に目配せをする。
「俺は送ってもらうよ、アリスは家も近いし反対方向だから一人で帰れるよね」
色持ちで、まだ小さい俺の方が高値で売れるはず。
俺はアリスを逃がしてくれたら、おとなしく付いていく、と言う意思を込めて、男を見た。
「そうですか、では、君だけお送りしましょう」
どうやら男に通じたようで、俺はアリスの手を離そうとしたが――。
がっしりと掴まれた手は離れない。
「別に送ってもらわなくて大丈夫です。アラン、帰るわよ」
「それは残念」
全然残念じゃなさそうに、男は言うと、アリスの腕をつかもうとするが――その手は空しかつかめなかった。
「なっ!! 足が動かない!」
手をばたつかせて、男たちはなんとか足を動かそうとしている。
「おまえ! 何やった。ただですむと思うなよ」
顔を真っ赤にして怒こる男に、アリスは「アランを連れ去ろうとした罪は償ってもらうから、憲兵が来るまでおとなしくしてなさい」と鼻で笑った。
「アリス……あの、ごめん」
俺はアリスに手を引かれながら、謝った。
「アリスを守りたかったのに、守れなくて、カップも割っちゃたし、畑もダメにしたし、子供で何も役に立たないし……」
自分でも何が言いたいかわからなかったが、とにかく謝りたかったのだ。
「アラン」
アリスは俺の名前を優しく呼んで、俺の目線に合わせるように、しゃがむ。
そしておもむろに、頬っぺたをムギュっと両手でつまむ。
ふふふ。
嬉しそうに笑って、頬っぺたから手を離すと今度は、ワシャワシャと髪を撫で回した。
「アランがチビで良かった。大人になってから会っても、さわらせてくれないでしょ。今ならどこでもさわり放題、撫でまわすように見ても怒られないし、アランの成長をみるのは楽しい」
アリスはぎゅっと俺を抱き締めた。
「アリスを守れるようになるよ」
そう決意して口に出すと、心のモヤモヤが晴れていく気がした。
「私を守ってくれるなら、私より強くなくちゃ、それまでは私がアランを守ってあげる」
「わかった、早く守れるようになるから」
「期待してる」
アリスは優しく笑った。
それから俺はアリスの途方もない魔力量を知り。鬼畜のようなガリレのもとに修行に出され、馬車馬のごとく店で働かされた。
俺って不幸かもと思ったが、今まで感じた事のない充実感が心地よかった。
そして、時折アリスが嬉しそうに俺の頭をなでて褒めてくれるたび、心が温かくなった。
絶対強くなってアリスを守る。
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