第13話 光視点 修行が辛すぎ

「くそ! くそ! くそ!」

 僕は汚く罵りながら、剣を振り魔物を斬っていく。

 斬っても斬っても、魔物はわいてきた。身体中、返り血で異臭を放ち、息をすると吐き気が襲ってくる。


 肩で息をしって呼吸を整える。

「ガリレ殺す!」

 さらに速度をあげて魔物を斬って行く。

 もう、ひたすら斬っていくうちに、怒りと疲労で思考が停止した。


 歯を食い縛り、前へ進むことだけを目標に「立ち止まるな!」と気合を入れて重たい腕に渾身の力をいれて振り上げる。


 ガッツ!

 剣が魔物の身体の途中で止まる。


 硬い!


 次の瞬間、尻尾が飛んできて、腹に食い込むんじゃないかという一撃があり、勢いよく横に飛ばされた。

 地面に叩きつけられるすんでで、受け身をとり、両足で踏ん張って立つ。


 はぁ、はぁ、はぁ。


「くそ! 何で……僕が」

 知らず涙が頬を伝って流れた。

 もうどのくらいこうして魔物を斬り続けているだろう?

 僕はただもとの世界に帰りたいだけなのに。

 そう思うと、また涙で視界がぼやけてくる。

 ズンッと一瞬の隙をつかれ肩に、痛みが走る。


 防御の魔法を使ったが、骨が砕けてるかも。

 膝をつきうずくまると、視界の角に誰かが立っている。


 はぁ、やっとか……。


 怪我をしたり、限界を越えたときだけ、ガリレは現れ治療をしてくれた。

 ガリレは返り血で泥々だった全身を魔法で綺麗にし、あちこち傷だらけの僕に治癒魔法を施す。

 先に痛みをとれよ!  と言ってやりたかったが、もう一言もしゃべれない。

 あらがうことのできない睡魔に引きずられ、深い眠りへと落ちていく。それの繰り返しだ。



 目覚めると、周りに魔物の気配は無かった。

「随分サーチ魔法の精度が上がったな」

 集中すればかなり正確に、獣と魔物の位置がわかる。

 当然ガリレの気配はない。

 そっと鞄からガリレがくれた魔法書を取り出す。暫くは襲われなさそうなので、続きを読むことにする。


「いいか、この魔法書のはじめから、練習して、最後までできたら、修行は終わりだ」

 ガレリに魔法のいろはを教わってから手渡された本だ。

 律儀にも、魔法書を読んで練習しているのは、この怪しい空間から出られないからだ。


「絶対に家に帰る」

 こんな野蛮な世界から帰るためならなんだってする。

 舐めるなよ、日本の中学生を、こんな魔法書、丸暗記だ!

 今年の受験には間に合わないかもしれないが、諦めるもんか。

 それから、来る日も来る日も魔物相手に戦い続け、魔法も上達してきた頃。


 魔物のランクが上がってくると、気配は魔物でどこからどう見ても、姿は人間というのが襲ってくる。

 角が生えている魔物はなんとか、斬ることができた。でも、言葉を話し人型に近い魔物は斬ることが出来なかった。


 致命傷を与えないように戦って、強化した保護魔法で作った檻の中にどんどん入れていく。


「何でとどめを刺さない? 奴隷にするつもりか?」

 首を振って否定するが、うまく説明できない。

 人間は殺せない。

 いや、厳密には人間じゃないけど。


 今は極限状態だから、うっかり殺しちゃうかもしれない、でも、日本に帰ったら絶対後悔する。日本人として、そこは絶対越えちゃいけない一線のような気がする。

 でも、その考えが甘いのもわかっていた。


 ガリレは何か言いたげだったが、それ以上は聞いてこなかった。


「まあいい。かなり上達したな。ここでの修行はこれが最後だ」

「最後?」

「ここが何処かわかるか?」

「異世界の森の中」

「ここは俺が時の魔法をかけた空間だ。簡単に言えば時間が止まってる」

 事も無げにいうと、ガリレは「じゃ、頑張って帰ってこい」

 来たときと同様音もなく消えた。


 まじか……。

 どおりで時間の感覚がおかしいと思った。

 取り敢えず、どのくらいの空間なのか歩いてみる事にした。


 結局、森から出られたのはそれから60日後、森に入ってから数えたら、240日後だった。

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