第6話 前世 始まりのはなし
運命のあの日、日本で桜舞い散る中、私は意識が遠のいていくのを感じながら、もうすぐ死ぬんだと思った。
意識が途切れる間際、ピンク色だった視界が闇に沈むことはなく、青い光に包まれて、落ちていく。
どこかにつかまろうと、必死に手を伸ばすが力が入らず、私は意識を手放した。
気づいたら知らない森の中だった。
死んだの?
これが死後の世界?
天国ではないことはわかった。暗く陰気な森のあちこちから、獣の叫び声が聞こえる。
地獄に落とされたのか?
目の前に真っ黒く角が生えた魔物を見たとき、抵抗もできずにすぐ死んだ。
そう、今度は確実に死んだ。死んだとわかった。
これがわたしの悲惨な無限ループの始まりだった。
異世界で死ぬと、私はまた日本の両親のもとに生まれ、16歳の誕生日に自分が人生やり直している事に気づく。次こそ避けようと思うのだが、何度やり直してもあの日と同じく、20歳の春、異世界に召喚される。
目が覚めるといつも同じ森。
魔物がうじゃうじゃいて、2度目以降も異世界ですぐ殺された。
過酷すぎる……。
何度目かの召喚でやっと森でガリレと逢い脱出できた。
せっかく無事に森を出ることができても、貴族にぶつかっただけで殺され、井戸水を飲んだだけで死に、奴隷として売られたこともある。
さらに問題は、異世界に落ちる度に同じではないということだ、ガリレは勿論、アランにも会えない時がある。
微妙に違う世界。
ガリレを見つけ出し、魔法の鍛錬をしアランを探して回った。やり直すたびに魔力量は多くなり、ガリレにさえ負けなくなった。一方で見た目は全く変わらない。年を取らなくなった事に気づく。
そして、ついに異世界間転移魔法を使えるようになる。
転移魔法でどこまで行けるか試していたときだ。
一度も行ったことがない所には転移できない。逆に言えば一度でも行けば転移できるのだ。
なら、日本はどうだろう?
今は異世界で簡単に死ぬことはないけれど、逆に日本の両親に会うことも出来なくなった。
一か八か日本を思い浮かべて転移してみると、信じられないことに、日本に転移していた。
自分でもビックリ。
これで運命を断ち切れるかもしれない……。
私は今度は自分の部屋を思い浮かべて転移した。
部屋を見回すと、16歳の誕生日に来ているようで、見覚えのあるプレゼントが机においてあった。
本能がこれは不味いかもしれないと囁く。
私自信に鉢合わせするのは、面倒なことが起こりそうだ。
ガリレに報告するも、やはり怪訝な顔をされる。
「安易に時空を越えて、もとの世界に転移魔法を使っては駄目だ。同じ世界に同じ魂が存在することはできない、融合することもあるが、たいていは近づけばどちらかの魂は消えてしまう」
ガリレは恐ろしいことをさらりと言った。が、怒ってはいないようだった。アリスを本当に心配してくれているのだう。
「今度向こうに行く時は、こちらに帰って来た瞬間に転移すれば魂が重なる事はない」
ややこしい話だが、言いたいことはなんとんく伝わった。
「わかった。次はさっき帰ってきた続きに行けばいいのね」
了解したとばかりに返事をすると、ガリレは難しい顔でため息をついた。
「ああ、くれぐれも自分自身に会わない様にしろ」
「そっか。魂は重なっちゃ駄目だから……」
「まあ、だが自分の部屋に転移したんだろ、かなりの確率で向こうにいたお前自身を吸収してしまった確率が高い」
「それって、私が向こうで生きている私を消しちゃったってこと?」
「そうとも言えない、そういう世界がもう一つできたといった方が正しい」
それからガリレはちょっと迷っているのか、口許に手をあて考え込んでから、目を見つめて言った。
「今度行くときはアランにはきちんと言っておけ。黙っていなくなるな」
私はこの時、浮かれていた。
もとの世界の私問題を思うと、頭がいたくなるが、考えてもわからないだろう。
それよりも重要なことは、今度こそ運命を変えられるかもしれないことだ。
転移魔法で日本に行った私は魔法が使えるのだ。
私は、アランのところに行き、話をした。
「話はわかりました」
アランは少し固い表情で頷く。今回は際会が遅かったので、いまだよそよそしいが、そこがまたかわいくもある。
「あの、向こうの世界で20歳以上生きられても、こちらの世界にもどって来てくれますよね」
不安そうなアランを安心させるように私はほほ笑んだ。
「うん、大丈夫。転移魔法で行き来出来るよ」
****
アランが立派な青年に成長した頃、私は商会の権利を全部アランに譲渡した。
アランはそんな必要はないと言ったが、万が一と言うことがある。
日本での運命の日、青白く光る魔法陣が出現したら、その前に自分で転移魔法を使えばいいのだ。
そうすれば目覚めた時には新たな森……。なんて事はないはず。
「アラン、じゃあ行ってくるね。絶対に運命に勝つから」
アランは不安そうに私を抱き締めてくれた。
こんなことをするアランは珍しい。
何だかくすぐったかったが「絶対帰るから」とぎゅっと抱き締め返した。
結局――私はアランとの約束を守れなかった。
魔法が使えても、運命には勝てず、またしても桜舞い散る中、青い光に包まれてあの森に落ちてしまったのだ。
絶望して声が枯れるまで泣いた。
もしかして、と思いアンダルシ王国の商会のあった場所に行ったが、何もなかった。
私は馬鹿だ。大馬鹿だ。
一番大切なものが何かわかっていなかった。
私はこの時誓った。
もう決してやり直しはしない。この世界で人生を全うしようと……。
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