第10話 異世界案内所 友情

「アリシア様は凄いです。悪役令嬢として転生して、断罪までされたのに、今では立派に仕事をして」


 アリシアは碧眼の瞳を揺らし、じっとリリィ様の言葉を聞いている。


「私は自分勝手な人間です。聖女として光魔法を極めれば、多くの苦しむ人を救うことができるのにそれをしない。自分を犠牲にしたくなかったんです。自由に生きたかった」

 消え入りそうな声は泣いているようにも聞こえて、私はそっとリリィ様を抱きしめた。


「この世界は王子さまやお姫様のいるキラキラの物語の世界。でも、実際は男尊女卑の差別社会。強いものが正義で、弱いものは死ぬ。自分らしくあるためには戦わなくては」

 何が正しいかなんて考えていては、生き残れないのだ。


「リリィ様。おしゃる通り私は悪役令嬢でした。平民を蔑み、贅沢をし、わがままを言う。いくら綺麗なドレスを着て、周りにかしづかれても、ちっとも心が満たされませんでした。私はこの世界で生きていなかったのです――」

 アリシアはそっとリリィ様の肩に手を置いた。


「前世を思い出したとき。ああ、やっぱりと思いました。私はシナリオ通りに生かされていたんだと。でもそんなのは私じゃない。もうこの世界に縛られたくないと思ったんです」

「ずっと辛くて、聖女になりたくない自分が許せなくて、逃げてばかりの自分も嫌いだし。だからと言って王子に面と向かって逆らえないし」

 リリィ様は泣いていた。たぶんずっと悩んでいたのだろう。

 この世界を誰が操っているか知らないが、絶対に負けるもんか。

 リリィ様が落ち着くまで、お茶をすることにした。


 私達は前世、同じ時間に生存していたことを知る。


「じゃあ、今は皆同じ歳ですが、ゲームが発売された年は、前世では私が35歳の時、リリィ様は27歳。アリスは16歳だったんだ」

 嬉しそうにアリシアが言う。


「あの、アリスさんは転生者ではないんですよね。やはり誰かに召喚されたのですか?」

「いえいえ、私は偶然来ちゃった、という感じです。それにここだけの話、この世界では歳をとらないようなんです」

 リリィ様はあんぐりと口を開けて驚いている。

 リリィ様とは長い付き合いになりそうなので、歳のことは打ち明けておくことにする。


「それって女として最強ですね。と言うか、世界中の女性を敵にまわしてます」

この世界では、寿命は魔力に比例することもあり、あり得ないことではない。でも、私の場合それだけではない。


「まあ、色々複雑なんですが、それはいつか」

 本当にいつか、打ち明けられたらいいなと思う。


「何だか悔しいので、私もひとつ爆弾発言をします」

 アリシアはニィ、と悪い笑みを浮かべて言った。

 悪役令嬢の顔ですよ!!

 何が悔しいのかさっぱり分からないが、続く言葉は確かに爆弾発言だった。


「私、前世では子供がいました――」

「「!!!!?」」

「今まで誰かに聞いてほしかったんですが、こんなこと誰にもいえないし……えっと、今日はどさくさにまぎれて、告白してみました。詳しくはまたいずれ」

 予想外の告白にリリィ様とコクコクと頷いた。


「あの、それとそとの看板外した方が良くないですか? もし王子が転生者なら不味いです」


 確かに。

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