第7話 異世界案内所 アリシア

 何時ものように、アランとお茶したあと、私は一人転移魔法でイスラの国に来ていた。

 イスラの国は、アンダルシ王国から船で10日かかる友好国で、第三の魔王の森近くでは一番力を持った国だ。

 魔王が住む森の近くには、沢山のダンジョンが存在する。ダンジョンが多ければ、冒険者が多く集まり、冒険者が集まれば、沢山の商売人が集まり、街には人が溢れ活気に満ちていた。

 人混みをのんびり歩きながら、一軒の魔法石屋の前で立ち止まる。


 普通の『魔法石屋』の看板の下に、日本語で『異世界案内所』と一回り小さく書かれている。

 日本語には軽く隠蔽魔法がかかっているので、日本語が読めるものにしか気づかれない。


「こんにちは」

 ドアを開けるとカランコロン、と懐かしい音がした。


「アリス!!」

 中にいた金髪碧眼の超美人がアリスに抱きついて、頬をスリスリさせてくる。


「アリシア!  ちょ、ちょ、ちょ、近いから……」

「あ、ごめん。つい嬉しくて」

 てへ。と笑うアリシアはかわいい。

 以前はきつめの美人で、まぎれもなく悪役令嬢だったのだが、嘘のような変わりっぷりだ。

 アリシアと会ったのは、彼女が断罪される前だった。


 ヒロインをいじめていたところ、その取り巻きに突き飛ばされ、頭を打った瞬間、前世の記憶を思いだしたそうだ。


 自分が乙女ゲームの悪役令嬢だったという事を。

 断罪後は国外追放の途中、首を絞められ殺される。

 それを回避するため、準備をしていたところうちの看板を目にしたそうだ。


 アリシアはすぐにでも、国外に逃げたいようだったが、断罪される前に逃亡し、追っ手がかかっては面倒だ。

 きちんと断罪されたあと、合法的に国外追放されるよう手配した。勿論、途中で殺されないようにしっかり息のかかった騎士に入れ換えて。


 聞けばアリシアは宝石デザイナーだったそうで、記憶が戻る前から、沢山の宝石を集めていたため、裏のお客さんとして、十分な報酬を払ってもらった。


 今は表の商売のお店を任せている。乙女ゲームの設定にありがちな悪役令嬢で魔力はバカみたいに高く。宝石に魔力を込めたりと、手広く商売している。


「見て、見てこれ!  この前ダンジョンの近くの鉱山から採れた、ピジョン・ブラッドのルビーなの。悪いものが憑いているからって、うちに持ってきたのを破格で買い取って浄化したのよ。儲けちゃったわぁ」


 ダンジョンの近くの鉱山は悪い影響を受けるようで、呪われている石が多い。

 小さい石なら、簡単に浄化出来るが、大きくなると悪魔の依代になりやすく浄化も難しいのだ。

 誉めて、誉めてと目をうるうるさせる元悪役令嬢の頭をなでなでしてあげる。


「めっちゃ凄いです」

 今はすっかりふわふわしてかわいい人だ。

 私はアリシアをギュット抱きしめた。


 アリシアを見ていると勇気が湧く。だって運命を変えた人だもの――。


「アリシア。さっき通話石で言ってたことは本当?」

「うん、そう。アランから連絡来て調べてみたけど、召喚魔法を使ったのは、この国の魔術師ソルトだと思う」


 ソルト。


 召喚魔法が使えるほどの腕前なら聞いたことくらいあるはずなのだが、全く覚えがない。


「前に知り合いが呪われた石を浄化してほしいと持ってきて、その時お城の魔術師が、大きな魔法を使うから、魔力の大きい人間を集めてると忠告してくれたの」

 なるほど。それは怪しい。


「でも、何のために勇者が必要なんだろう? 魔王の森と人間の街とは、きちんと住み分けが出来ているように思える。争いもなく国も栄えているのに、勇者を必要とする事とは何だろう?」

 もう少し、内情を調べてみないと分からない。

 しかし、王宮の内情となるとこの国の貴族ではないアリシアには難しい。


「もう少し時間をもらえれば、宝石を売りに貴族のお屋敷に伺うことになっているから、多少話は聞けると思う」

「ありがとう。無理しないでね」


 ***


「すいませーん。看板を見たんですけど、誰かいますか?」

 アリシアとふたり、楽しくお茶をしていると、お客さんが来た。

 そしてそのお客さんを見て、私とアリシアは固まって返事をすることができなかった。


「ヒロインさん――」

 そこにはピンクの髪で大きな瞳をうるうるさせた、いかにもヒロインですという少女が立っていた。

 いや、本家のうるうる瞳って破壊力凄!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る