第3話 勇者はもとの世界に帰りたい

「凄いな」

「そうでしょ、この世界は魔法があって、ドラゴンや精霊がいる。魔王も勇者もそんなに珍しくないしね」

「勇者が珍しくないのか? 職業としてあるとか?」


「職業って訳じゃないけど、複数のゲームの世界や小説の世界を共有してるって感じ。魔王は4人も存在するし。ピンクの髪のヒロインなんて、3人も会ったことあるし」


「これって夢か?」

 光はちょっと考えて、夢落ちと言う結論を出したようだ。


「残念だけど現実。この世界で死んだら、痛いし苦しいから」

 私もこの森に落ちた一人だ。偶然ガリレに助けられなければ死んでいた。


「なぜこの森に異世界人が落ちてくるのかわからないけど、落ちてきちゃったものは仕方ない。なんとか生き抜いてちょうだい。さあ、足首の傷も治してあげる」

 そう生きていれば希望はある。

 そっと光の足に手をかざす。


 光は黙って見ていた。手首を治したときには、驚いていたが嬉しそうだったのに今は喜んでいると言うよりどこか不機嫌そうだ。


「光の場合、召喚した術者の力量が足りなかったのかもね。召喚魔法は最高難度の魔法だから、複数で魔法陣を造ることも珍しくないの。だから、この世界に召喚することはできたけど、森の持つ魔力に引っ張られっちゃったのかな?」


 そのおかげで、勇者様にあえて光栄です。少し冗談ぽく言ったのに、光の答えは意外なものだった。


「俺は勇者にはならない。もとの世界に戻りたい」

 えっ!


 チートな勇者なんて最強なのに


「なんで……」

「なんで? それはこっちが聞きたい、なんで俺が勇者なんてしなきゃならないんだ。魔王倒して何の特がある?」


 今時の中学生はこんなに冷めているのか?


 まあ、勇者と言えば思い付くのは魔王討伐。それ以外でも危険なことはたしかだろう。

 いくらチートな勇者でも命がけ。

 普通にスマホなしで文明の遅れた世界なんて、帰りたくて当然だ。


「なるほど。帰りたいのは今はどうにもならないけど、勇者にならないってのは協力できるかな」


「いつか帰れるのか?」

「それは分からない。光を召喚した魔術師に聞かないと。でも、召喚場所に飛ばせなかったのをみるかぎり、送り返すほどの力はないかも。それに、召喚者はきっとあなたをまだ探していると思う」


 これだけの大きな魔法を未完了ながら成功させたのだ、自分の魔法の軌跡を追っているに違いない。


「たぶん、ガリレが隠蔽魔法をかけいてくれてるから見つかってはいないけど、いつまでもこのままと言う訳にはいかない」

「ガリレは俺を送り返せないのか?」

「ガリレには無理」

「さっき、君は俺に協力できるといったよね、具体的に何を協力できるんだ?」


 君か――。


 ちょっと距離感あるし、年上にどうなのと言ってやりたいけど、まあいい。

 私はテーブルの上にA4のプリントを数枚出して確認し、光の前にボールペンとともに置いた。


 さて商売といきますか。


「これは?」

「顧客シートと依頼書です。簡単な料金表もつけてます」


 明らかに光は引いているようだったが、構わず続ける。


「森での保護、状況説明、先ほどの治癒魔法はサービスです。ご希望なら、近くの町までの転送までサービスいたします。ガリレの隠蔽魔法も町までサービスしますので、じっくり考えてもらって構いません」


 にっこり営業スマイルで言うと光は呆けてわたしを見た。


「金とるのか」



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