第2話 落ちてきたのは勇者でした

「魔法陣……」

「アニメとかゲームに出てくるやつ」

 ここでは現実だけどね。


「魔法陣……」

 少年は記憶を探るように考え込むと、「いやいや、そんな馬鹿な……あり得ないだろ……」とぶつぶつ言っている。


「魔法陣、あったんですね」


「……あったような気がする。目の前が光に包まれたとき、足下に沢山文字が書かれてた、あれが魔法陣なのか?」

 少年が――光が自信なさげに視線をさ迷わせ、子供のような視線で見つめてくる。


「なるほど、じゃあ魔法陣で召喚されたのに召喚者のところじゃなくてこの森に落ちてきちゃったんだ」

 なぜそんなにもこの森に転移者がひきつけられるのかわからないが、その召喚者、今ごろ血眼になって探してるな。ガリレはきちんと召喚者から隠すための隠蔽魔法かけてくれてるよね。ただ縛り上げただけなら、許さないから。


「じゃあ、さっそくステータスを見せて」

「ステータス?」


「そう、ステータス。召喚されたんだから、それくらいできるはず。ステータスオープンとか言えば開けるんじゃない?どこかに冒険者か勇者って書いてない?」

 光はまだ、半信半疑のようだったが、言う通りにステータスを開くと、驚いた顔でじっと確認していく。私も横から覗き込む。


 この世界の人間でも、自分のステータスを見られる人間は限られている。鑑定魔法が使えるか、チートな設定で落ちてきた人間だけだ。


 そして、やっぱり光はチートで勇者だった。


「俺が勇者――」


「そうみたいね」

 未だ呆然としている光をよそに、手早く縄を解いていく。もう暴れたりしないだろう。


「誰が俺を召喚したんだ? あの男か?」

 あの男とは、光をこの家に案内して、手足を縛ったガリレのことだろう。


「ガリレじゃないわ。彼は魔術師。私は彼にこの森に落ちてくる、異世界人を保護するように依頼しているの。あくまでも保護で決して監禁ではないけど」

 あえて、ガリレがこの国世界でも最強宮廷魔術師であることは言わなかった。


「保護って、どうしてだ?」


「どうしてって、決まってるじゃない。この森は魔物がうじゃうじゃいるし、普通の人間じゃ1時間だって生きていけない。光だって勇者でも今は魔法も剣も使えないでしょ。まあ、同郷のよしみね。いい、覚えておきなさい、どんなにチートでも人間一人じゃ生きていけないの」

 もちろんそれだけじゃない。

 この世界ではきちんと教育を受けてきた日本人は人材としてはピカ一だ。モノ作りから、事業の投資まで援助の見返りは大きい。光のように勇者なら、それこそリターンは期待できる。


「異世界人を保護って、そんなに何人も落ちてくるのか?」

「まあそれなりのね」


 光は縛られていた手首をさすりながら、聞いてきた。手加減無しで縛られていたのだろう、赤くみみず腫になっている。


 後でガリレが治してやればいいのだが、デモンストレーションとして丁度いい。手を伸ばし光の手首を掴んで、治癒魔法で治す。


「うわ!!」

 あわてて手を引っ込めて、光はその場に立ち尽くす。


「これは治癒魔法で、結構貴重で難易度高いから」


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