ヒロインでも悪役令嬢でもないですが、異世界の救世主です

彩理

運命の出会い

第1話 ここは何処だ?

 見上げると、木々の隙間すきまからわずかに空が見え、あちこちから人ではない気配を感じる。


 普通の人間なら3日ともたずに魔物に襲われて死ぬような森には、なぜかときどき異世界人が落ちてくる。


 今日落ちてきた子はどんな人間かなぁ……。

 私は森の中に忽然こつぜんとたつ一軒の魔術師の家の扉を開けた。災難にも、召喚され森に落ちてきてしまったであろう誰かを回収するために。


「うぅぅ、うぅぅ、うぅぅ」

 リビング奥のキッチンからうなり声が聞こえる。


ヴァヴゥヴェヴェ助けて!!」

 ガリレの奴、またやったのか……。とにかく対人関係に難ありの魔術師は、同時に珍しい魔法しか興味のない男だった。

 落ちてくる人間の一時保護も、しぶしぶ引き受けてくれたのだ。

 足早に向かうとそこには想像通りの光景がある。

 目の前には食卓テーブルの椅子に、両手両足を縛り付けられ猿ぐつわをされた少年がもがいていた。


 これって、そそられていいの?


 いやいや、違うのよ。

 誤解だし……。

 

 あり得ないでしょう、保護するだけって頼んでいるのなぜ毎回縛る?


「あの、ちょっと落ち着いて――」

 我ながら間抜けなことを言っているなと思ったものの、話を聞いてもらうにはまずは目の前の少年に、敵ではないと認識してもらう必要がある。

 できるだけ易しく言ったつもりだったのに、少年は目をギッロっと見開いて、さらに声を大きくしてもがいた。


「&―〇?! ̄|#%&!!」


「いや、言いたいことはわかるけど、ちょっと落ち着きましょう。えーと、静かにしてくれたら、まず、猿ぐつわをとりますから、暴れないと約束してください」

 少年は怒りに満ちた目でこちらを見上げたが、コクりと頷いた。

 いや、無理だなこりゃ。目は口ほどにものを言ってますよ。


 それでも私は自己紹介してみた。


「私はアリスです。商人ですが、あなたを縛ったガリレとは知り合いで。たぶん力になれると思います」

 そっと後ろに回り、猿ぐつわをほどく。


「おい!  早くこの縄ほどけよ、こんなことしてただですむと思ってるのか!!」

 少年は椅子ごとガタガタと体を動かして怒鳴った。

 やっぱり静かに話を聞く気はないらしい。


 はぁ――。


 今日何度目かのため息をして、ゆっくりと向かいの席に腰を下ろした。辛抱強く、しかし、落ち着くまで待つよと言う意思を込めてじっと少年を観察する。


 少年は小柄だが学ランを着ているので中学生だろう。ニキビのないつるつる肌だ。きりっとした目元が賢そう。短めの髪も清潔感があって好感が持てる。


 というか学ランって萌えるな。断然ブレザーより学ランだ。

 余計なことを考えていると、怒鳴ることがなくなったのか、女子に見つめられてるのに困惑したのか、少年がやっと黙った。


「まずはあなたの名前?」

「俺は近藤光。13だ。気づいたら森にいて、怪しい男についてきたらいきなり縛られた。あいつの仲間じゃないなら、今すぐ警察に電話してください」


 光くんか。13なら中学生だよね。かわいそうに。

 それにしても、怪しいと思ったのにノコノコついてきたのか?

 男の子とはいえ、こんなにかわいいのだ、危機感無さすぎじゃない?


 こうして縄もほどいてやらず、目の前に座っている時点でガリレの仲間と認識はないのか?


「申し訳ないけど、ここは電話が通じてないの。気づいたらって、その前に誰かに刺されたとか、交通事故にあって気を失ったとか?」

 少年は眉間にシワを寄せて、露骨に警戒を表した。


「いや、誰にも刺されていないし、事故にもあっていない。いきなり地面が光って避けたけど間に合わなかった。街中で閃光弾ってありかよ――それにしても電話も通じない山奥ってどこだよ」

 閃光弾って、さすがにそれは飛躍過ぎでは? と思ったが、現実の方があり得ないか。


「その時、魔法陣はあった?」

「はぁ!?  魔法陣?」

 何言ってんだこいつ、と言う顔をして、少年はすっとんきょうな声をあげた。

 ごめん、そうだよね。そんな顔になるよね。でも驚くのはこれからが本番だから。

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